第12話 白いカスミ草。
21XX年 六千万人まで減少した日本は人口増加計画から『シングルマザー支援課』を立ち上げた。
出産を希望する女性へエージェントの精子提供と出産&育児養育費用に加えて、母親の生活支援。
勿論それに反対する同性愛者など性的少数者の意見も有ったが、当時の総理は『日本人の絶滅を容認する者は日本国民に在らず、国外退去を命じる』と強権を振るった。
更に『人口増加予算は何処から捻出するのか?』の野党へ『市民税県民税以外の住民税として国民税を導入する、これは日本国民の義務である』を正義論で押し通した。
妊活支援の条件は『二十歳から四十歳までの健康な日本人女性』と『87%の日本人遺伝子が絶対条件』とは、曾爺さん曾婆さんまで先祖八人に外国人は一人まで、二人以上外国のDNAが居ない事で、純血種を維持しようするペットの血統書みたいな政策に野党と在日外国人も反発した。
その対応に『もしも国益に反する人民が居るなら、そのの在住権と在留許可を抹消します』の答弁に誰も反論できなかった。
その頃、理系大学生の僕はまさか支援課の公務員に成るとは夢にも思わなかった。
◇
◇
三連日の任務が終了すれば本省に帰還して休日を謳歌しよう、と言ってもネット上で日本の絶景巡りと名産品を探して、気に成るものは通販で取り寄せる位の細やかな趣味だ。
『名物に美味いもの無し』と昔の人は良く言ったもので、土地が変わっても何処の温泉饅頭はどれも似ていて、逆にオリジナリティが無い新作の洋菓子が美味しかったりする。
妊活支援の目的で国内各地に政府指導で格安料金の『マパ・ホテル』が幾つも建設された。
それは若者の自主的な妊活も有るが僕達エージェントが活動する場所でも有った。
いつもの様に与えられた職務を遂行する僕の前に現れた依頼者の女性は、いつも見る大人の要素が少しも無く、小柄で細身の女性と言うより少女の様で、
「私は小梅です、宜しくお願いします」
そう名乗る依頼者は支援対象外の二十歳未満にしか見えない、胸とお尻も小さく腰のくびれも少ない思春期前の女子中学生、花に例えるなら白いカスミ草のような。
「僕はチェリーです、失礼ながら小梅さんの年齢確認をお願いします」
いつもは女性に年齢を聞く失礼を省略するが、対応年齢以外の違反を危惧して念は念を入れた。
「私本人が申請して其方の許可を頂きましたので、チェリーさんが確認して下さい」
確かにそうだ、職務用のタブレットから依頼者の指名年齢は伏せられているが今回の指令番号を確認しても不備は無い、それでも不安な僕は携帯しているタブレットで、
「それでは此処の指紋照会で本人確認をお願いします」
「随分と入念な事ですね?」
小梅さんの皮肉にも、
「これが仕事ですから」
状況は違うけどいつも慣れた言葉で返す。
審問認証でも本人確認が取れて受胎行為へ進む前に、いつもの様に同意確認と排卵チェック、セルフか自然行為の選択を尋ねる途中で唾液による『排卵日』の反応が出ない。
「これでは今日の作業は無理ですね」
最初から不安な僕は排卵チェックを理由に先送りを申し出たが、
「え、私は元々生理不順ですが、基礎体温とか前回の月経から計算して今日が当たり日です」
そこまで言われると此方も否定出来ない。
「受胎の方法は?」
先へ進む前提で行為の方法を尋ねた僕へ、
「男女の交わりで受胎をお願いします」
小梅さんの決意は変わらないのか、何度訪ねても答えは同じだった。
それから交代でシャワーを浴びた後、
「私、一度も男性経験は無いけど、幼い頃からの体操競技で物理的な処女では無いと思います」
「了解しました、痛みや不安を与えない様に気をつけます」
僕の言葉に小梅さんは安心したのか、ダブルサイズのベッドで交尾を始めて三十分で終了した。
任務終了後にどうしても気に成る僕は、
「同じ質問をしますが、小梅さんは本当に二十歳ですか?」
今更に訊いても元に戻せないと思うのは小梅さんも同じで、
「そうですね、実は私、十七歳です」
やっぱりそうだと思った、僕の勘も満更で無い。
規則では依頼者の個人情報と志望動機に付いて質問出来ないが、行為後なら問題は無いかもと、
「でも、どうして?」
「私の回りは身長も高くて大人っぽく、小柄な私はいつも子供扱いされて、大きな怪我で競技を辞めて高校も退学して友達より先にママに成れば新しい人生が始められるかもって、それからダメ元で申請したら許可が下りました」
僕の高校時代に膝靭帯の故障で柔道を辞めたが、通っていた高校は文武両道の精神から運動部系から進学系へ転入して、周りから落ち零れないように必死に学習して理工学部へ入学した、そんな経験から小梅さんに同情できる。
「それでも規則的には問題があります」
僕の反論に、
「百年以上過去n民法では『親の同意が有れば女子は十六歳で婚姻できる』から私の年齢で妊娠出産に問題は無いって、其方の申請窓口で教えられました」
「なるほど、お気持ちは理解できました、数日で妊娠確認が取れましたら支援援助の申請を提出してください」
「クソが~」
ホテルのエントランスから街頭を歩く僕は、出生数さえ増えれば年齢を無視する本部の姿勢に苛立ちを感じた。
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