第11話 白いバラ。

ナマハゲとキリタンポが有名な土地で二番目の任務へ向かう施設は、昨日の老舗和風旅館でなくごく平凡なシティホテルに改めて昨日の松子さんは身分を隠した高貴な方なのか、若しかして名前に子が付くのなら旧華族がお忍びでお戯れに街へ出たとかを想像しながら、松子と言ってもきっと仮名か偽名だよな、と自問自答で納得した。


初対面の女性へ

「支援課エージェントのチェリーです」

都合上で代理人エージェントを名乗るが、実際は使者メッセンジャーが正しいと思う。

僕の自己紹介に応える女性の依頼者は

「私は竹美です」

簡単な挨拶より竹美さんの容姿と顔に驚きを隠せないのは、瓜実型で面長、瞳は大きく、口は小さく鼻筋が通っている。 肌はきめ細かく透き通るように白い。


顔のパーツを比べても昨日の松子さんに瓜二つ、一卵性双生児と言われても疑う余地は無い。しかし依頼者の個人情報を尋ねるのは規則違反であり、こちらからは質問出来ないが僕の疑問が表情に出ていたのか。


「私の顔がどうかしました?」

心中を読まれたのかと驚いても、

「こちらの地方は美人が多くて、やっぱ雪国ですね」

動揺を隠して平然な顔で誤魔化してみた。


「そうですか他意があるみたいだったので、それで本音では?」

きっと僕より人生経験の多い人には心の内を隠せないと観念して、

「失礼ながら、竹美さんが双子とか、それ無いですよね?」

疑問を本音で尋ねた僕へ、

「私に双子は居ないですよ、それとも私に似た女性を見たのですか、ドッペルゲンガーなら会ってみたいです」

学生時代から友達が多くコミュ力の高い女性は苦手だった、これには焦った自分の失言に冷や汗が出る。


思い起こせば理工系大学に通う頃、友人から『お前はいつも女性アイドルを間違える』と指摘されて、『アイドルグループのメンバーは同じ衣装と似たメイクと髪型で雰囲気を似せている』と反論した。


アイドルでなくても男女の俳優タレントが似ているのは、AI分身アバターで制作された映画シネマの影響だと思う。

オリジナルタレントの容姿と表情をデータで取り込み、アフレコの肉声からストーリーの台詞をPCのAIが映画を完成させる。

前世紀の人が見たら実写か加工映像の判別を出来る訳ないと確信する。


過去の思い出から現実に戻り、清楚系美人の松子さんが大輪の白菊なら、社交的な笑顔の竹美さんは白いバラの様な雰囲気を受ける。

但しどちらも色白の雪国美人に違いない。


「早速ですが、シングルマザー支援課の手続きを始めさせて貰います」

そう言いながら人妻でも子供を望む女性なら、僕達エージェントが受胎させて人口を増やせば結果は同じで、これじゃ絶命危惧動物の繁殖と同じじゃないかの疑問を解消出来ないまま任務を遂行していた。


同意の確認から排卵チェックとセルフ注入か男女の性交を選択、もちろん行為のキャンセル権も依頼女性に有る。


「う~ン、どうしようかな」

竹美さんは悩んでいるみたいに見えて、

「初対面の男性とじゃ気分が出ないですよね」

キャンセル有りきで話題を振った僕へ、

「そうじゃなくて、チェリーさんは性欲強いですか、私一回や二回じゃ物足りなくて、満足させてくれますか?」


「出来る限り頑張らせてもらいます」

謙遜した心算は無いが、僕が経験した人数は職務上の女性だけで、プライベートのエッチはゼロとは正直に言えなかった。

「それを聞いて安心しました、わたし処女じゃないので遠慮しないで下さいね」


それから二時間経過し、内線から『御時間です、如何致しますか?』の問いに『延長します』と答え、更に二時間の職務で心地良い疲労感に包まれた。


「可能なら男子を産みたいのです」

性別を希望されても種蒔き男の僕には不可能なお願いで、

「それは神様がお決めに成る事です、でもどうして?」

こちらから質問出来ないルールだが、肌を重ねて気が緩んだ僕がポロリと竹美さんに溢した。


「私の家族は代々女系で何代も女子しか産まれなくて、父も祖父も養子さんで何故か身体が弱いから、私が元気で丈夫な男子を産みたい」


中学か高校の頃、遺伝についての授業で優性遺伝と劣勢遺伝が有り、これとは違うが過去の戦時下で多くの男子は徴兵から戦死した、それを補充するように男子の出生数が多くなり、時代が平和な環境に移行すると女子の出生数が多くなった、と聞いた。

それと別の理由で地方の狭い地域では血族間の婚姻が珍しくなく、それが理由で女子が多く生まれる現実も否定出来ない・・らしい。


竹美さんの家もそれで女系家族なのか、想像の域を脱しない。




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