第7話 異動と上司の告白。

21XX年、シングルマザー支援課に勤務する僕が学んだ小学校では、紫外線対策や通学時の負担軽減、不登校の生徒も授業に参加出来る様、週に月水金の三日がリモート形式のホームスタディ、火木に登校して授業科目の体育とコミニュケーションを目的とする集団生活が行われた。

登校日には生徒達の出席意欲と好奇心を持たせる為に担当教師は自慢の薀蓄うんちくを披露した。

全ての薀蓄が生徒全員の琴線に触れる事は無く、僕個人は『原子力発電は核分裂、これは原子爆弾と同じ、これは科学技術の平和利用と大量殺人兵器へ悪用だ、さらに水素爆弾の技術は核融合であり原子爆弾の1000倍以上破壊力が有る、その核融合は太陽の活動と同じだから』に子供心の興味をそそられた。


それから数年が経ち中学時代の教師から、

『太陽は地球へ光と熱を届けてくれて、生物が誕生できたのも太陽光の産物と言っても過言では無い。しかし近年の温暖化と紫外線の影響で地球環境が変化して、地上の生物には厳しい状況を否定出来ない、では君達が大人に成った時はどう行動したらベストだと思う?』


教師は薀蓄の最後に生徒へ問題を提起する、それに刺激を受けた男子は科学の道を志す動機にも成った。

あの頃の僕は考えた、地球上に住めなく成る前に別の惑星へ移住する為には生活環境の整備が必要だと、知らない事はネットで調べられた。太陽から出るのは光と熱以外の太陽放射線が有ると知り、核融合の太陽活動から放出される放射線は人体に影響を与えるを否定出来ない、地球に存在するウランなどの核物質は永年の太陽放射線が蓄積された理論にも納得した。更に深掘りしていくと大気圏外で一定時間以上活動した宇宙飛行士の殆どが宇宙白血病に犯されて人生の最後を迎える。


肉眼で確認できる月に移住には大気層の確保と、宇宙放射線を防御する建設材料の開発が急務と中学生ながらに思いを巡らせた。


あれから十年弱の月日が流れ、先進各国は人工衛星軌道上に宇宙ステーションを上げた後に人間が月に移住できるよう、先発隊の工事用ロボット達が月面基地の建設に従事していると科学ニュースで見た。

木村先輩が異動して数ヶ月、後任のエージェントが着任しない中、水と空気が綺麗な地方へ移動が決まった僕へ細川課長から、

「大山君、奥羽地方は若い男性に誘惑が多いから気をつけてな」

「それは?」


「まあ行ってみれば分かるから、くれぐれもミイラ取りがミイラに成らない様に」

その意味を知るまで僕は課長の進言を理解できなかった。


最後の出社日は僕に任務が無く、課内で課長と二人きり状態に落ち着かない。

それに引き換え細川課長は口角を上げならが微笑みを絶やさない。

まるでその訳を訊いてくれとばかりに僕の顔を見る、そんな空気を感じた僕は、

「課長、何か善い事でも有りましたか?」

「そうだな、良い機会だから聞いてもらうか、実は俺に子供ができた、まだ妻のお腹の中だけど」

そう言って僕へプライベート・ポイホの画面を見せて、

「これが妻の美沙江だ、可愛いだろう、今は妊娠三ヶ月で俺より十歳以上年下でな、大山君には感謝する」

その画像を見て、まさか、僕の初任務だったミーシャさんが細川課長の妻とは、課長は全て最初から分かっていた僕の任務なのか。


「驚いて言葉が出ません」

「俺と妻も幸せだから、それに妊婦検診で女児の双子らしい、喜びも二倍だ」

支援課から派遣されたエージェントで妊娠した子供は超法規的措置で夫の実子として戸籍に入れられるが、同じエージェントの遺伝子で生まれた子たちは近親婚姻禁止法で入籍を認められない。


初めて雪国へ向かう高速鉄道の車内から見る景色の移り変わりにワクワクした。

高速鉄道といえば超伝導リニアトレインを指すが、21世紀半ばに東京名古屋間が開通した後に大阪まで延長された。その後は人口減少から利用者の増加が見込めなく、トンネルが多くて景色が見えないから旅の気分が無い、大都市間の中間駅が超田舎、工事による水脈破壊、ペースメーカーを入れた祖父母が心配などの理由で不人気から、従来から有る東海道・山陽新幹線の高速化工事が決定された。


ネット上で国内の世界遺産や風光明媚な名勝地を閲覧して、その地区を訪ねる妄想が僕の趣味。

次の赴任地は東北四県へ異動、今でこそ積雪量は減ったが冬の風物詩で雪の世界を体感できる地区、もちろん地元産の米や農産物と海産も有名で美味しいらしい。


元々子作り任務の為に僕は飲酒しない。



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