祝祭にありて歌姫に寄する歌 5
二人からは度々メッセが届くようになった。杏奈がミクとやっている路上の音楽も聴くようになった。今日も自分は杏奈と出会い、曲の合間を縫って話しかける。
「生きてる?」
「生きてるさ」
「そ」
「ところでさ、この音楽よーつべで聞いたよ。もしかして君が作ったのかい」
コクリ。うなずく杏奈。
「最近じゃ楽器が使えなくても、曲は作れると聞いたことあるけど本当なんだな」
「テクノの時代からそうよ」
「そうだったか」
コクリ。二度目のうなずき。
「でもそれをいわないんだね、君は」
「そ、言っても仕方ないもの」
「じゃあなぜ……」
と言いかけてやめた。死に場所を探しているんだっけ。
「こんな才能があれば生きればいいのに」
代わりに自分は言う。
「才能なんて、すぐ枯れるわ」
「それは、そうかもしれないけど……」
「意外、肯定するんだ」
「才能についてはそれなりに一家言あるんだ」
自分は小説の才能があったと疑いなく信じていた頃を思い出しながら、言った。
「そ」
「……」
「ところで、サキちゃんのところへは行かないの」
「なんか、自分のことを話してられりゃ同じなんだなと思ったし、君と出会ったし」
「なに、それ。ま、話し相手が欲しかったのというのは、わかる、かも」
「入店予定はまだバンバン入るけどさ。まあ、もう、どうでもいいよ」
「鬼」
「鬼だし、おかげでお金も浮いた。何をするわけじゃ無いけど」
「……ふうん、そろそろ演奏したい」
「じゃ、また」
「また」
「変わってるとか、いわないのね」
今度はミクと名乗る機械音声の子とメッセ。
「変わってるなら、こっちだって変わってる。それに、あの杏奈って女も変わってる」
「少女って呼んであげなよ」
「そんな歳でもないだろ」
「女の子にはね、青年という言葉が無いから少女の期間が男よりもずっと長いの」
「あっそ」
「ひどい」
「歳のことぐらいでひどいなんて言われたくない」
「むー」
突き放すと膨れたような言葉が返ってきた。自分は話題を変える。
「ところでブログの方はどうだい」
「まあまあって感じ」
「そうか、役にたってるとは思えないが、そっちがそうなら嬉しいよ」
そう送ってメッセを閉じる。少し考える時間が必要な気がした。
年齢か。
年若い頃は、自分は天才だとすら思っていた。小説まがいの物をどんどん書いていた。
けれどそれはただの無鉄砲さで。
「……」
だけどそれが懐かしくもある。
きっと、死に場所を探している杏奈も、自分の才能を無邪気に信じてきた頃があったんだろう。
それがしだいに信じられなくなって、死にたいとか思うように。
「だが」
杏奈には才能が確実にあると思う。
それは曲を聴いただけの自分にも分かった。
ギリ。
歯がみする。
嫉妬している。嫌なことだけど。
そして絶望している。才能の摩耗した自分のことを。
自分は煩悶し、ズボンを下げ、オナニーをして、無理矢理眠った。
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