祝祭にありて歌姫に寄する歌 4

「……」

 嫌な、質問だな。自分は素直に返信する。

「嫌な質問するね」

「ごめんなさい、でもあのとき言ってたよね。本当の悲しい話は書けないとか。でも、あの記事も十分に悲しいと思うの。実際に誰かが犠牲になっているわけだし」

「うん」

「それで、その自覚はあるのかなって」

「あるさ。もう摩耗しかけてるけど。時々、胸を刺す」

「でもキャバクラ行っちゃうんでしょ?」

「ああ」

「それって、どうなの?」

「正しいことだよ」

「え?」

「ごめん、それでこっちを責めたいんだろうけど。そればっかりは当然のことなんだ」

「それって、どういう理屈?」

「自分は人の不幸で飯を食べているしキャバクラにも行くけど、それは他の人たちの代わりなんだ。誰かが不幸を求めるから、それに応えているだけなんだ。他の人がやらない汚れ仕事をしているから、お金をもらっているんだよ。自分の仕事はデスクワークだけどやっていることは日本を支えるブルーカラーみたいなものだよ」

「不幸が日本を支えるか……。深いことを言うね」

「ごめん、適当言った。でも君たちにとやかく言われる必要は無い。お金はお金って自分は既に割り切ってる。ボランティアならこんな仕事しないし」

「ふーん」

 少しメッセージが途切れる。だがまた向こうからメッセージが来た。 

「ところで、ホストにはまっちゃう子の話が悲しくて」

「ああ」

 そんなことも話したっけと思いながら返事をする。

「なんとかしてあげられないの?」

「それをあの子が不幸だと思っているなら、少しは手を貸してあげたい。でもホストにはまって幸せだと思ってるんだ。生きがいを感じているんだと思っているんだよ」

「そう、か」

「だから、自分にはどうにもできない」

「悲しいね」

「だから言ったろ、悲しい話だって」

「自分が幸せなのにそれって不幸だよって周りから言われるのは確かに受け入れがたいよね」

 少しあって機械音声を使っていた子は言葉を続ける。

「それに、そもそも美容師になろうとしたのも、周りからちやほやされたいだけだった、のかも」

「おい、怒るよ」

「ごめん、でも」

「とはいえ、それもあるかもなぁ。まるで自信の無い娘だったし。美容師になれれば何かになれる、そんな危うさは初めて会ったときから抱いてた」

「……」

「君はどうだい?」

「私にはこの仮面があるもの」

「そうか」

 そう書くと、メッセは途切れた。


「ふう」

 息をつく。いろいろ考えてしまう。不幸のこと、仕事のこと、サキちゃんのこと、杏奈のこと、機械音声の子のこと。

(そういえば名前聞いてなかったな。まあプロフに書いてあるだろとスマホを持って見返す。

 ミク。

 なんだ、機械音声と同じ名前使ってるのか。

 興味を無くし、スマホを投げ出す。そして思考はぼやけ、酒にまみれて、消えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る