第29話 守護者の目覚め

三木が新たな守護者として道に縛られてから数日が過ぎた。幹線道路は以前と変わらぬ平穏を取り戻し、人々が行き交う日常が続いていた。だが、三木の存在は誰にも知られることなく、鈴の音と共に道の奥深くに潜み続けていた。


道の異変


ある夜、風が止まり、道が再び静寂に包まれた。三木はその静けさの中で微かな異変を感じ取った。道の奥から鈴の音が響いてきたのだ。それは以前とは異なる、不規則で重い響きだった。


「これは…まだ何かが残っているのか?」


三木は道の中心に立ち、鈴の音の方向へと歩を進めた。霧はなく、道幅は以前よりも広がり、穏やかに見えた。しかし、鈴の音が近づくにつれ、冷たい風が肌を撫で、不穏な空気が漂い始めた。


「まだ終わっていない…そういうことか」


道の奥へ進むにつれ、三木はかすかに見覚えのある風景にたどり着いた。そこはかつて安息寺があったとされる場所であり、封印の台座が残されている場所だった。だが、台座の表面には新たな亀裂が走っていた。


「封印が…再び崩れかけている?」


その亀裂からは薄い黒い霧が漏れ出しており、それが鈴の音を発しているようだった。三木は台座に近づき、手を伸ばして霧を触れようとしたが、その瞬間、霧の中から再び影が現れた。


再び現れた影


影は以前見たものとは違い、より明確な形を持っていた。それはまるで人間の姿を模しているかのようだったが、目や口は闇に溶け込み、実体があるのかさえ分からなかった。


「守護者よ…お前が封じたつもりでも、我々の存在は消えない」


影が低く響く声で語りかけた。三木はその声に恐怖を覚える一方で、守護者としての責任感が湧き上がった。


「まだお前たちがここに残っているなら、俺が終わらせる」


三木がそう告げると、影は微かに笑うように体を揺らした。


「終わらせる?それはお前の役目ではない。我々はお前と共にあり続ける。我々は道そのものだ。お前がここにいる限り、我々も存在する」


影の言葉に、三木は息を呑んだ。この道を守るということは、自分自身が影と一体となることを意味していた。それは、怨念を封じるだけでなく、怨念の一部を背負い続けることを示していた。


新たな封印


影が霧と共に台座を取り囲むように動き始めた。その動きに合わせて、鈴の音が再び響き渡る。音は次第に高まり、三木の体の中で共鳴するように感じられた。


「これが…俺の役目だ」


三木は鈴を握りしめ、台座の上に立った。彼の体からは暖かな光が放たれ、それが影を包み込むように広がっていった。その光は、台座の亀裂を一瞬で修復し、漏れ出していた黒い霧を封じ込めた。


影は静かに消え、その場には再び穏やかな静けさが戻った。台座は完全な形に戻り、鈴の音も消え去った。


守護者の決意


すべてが終わった後、三木は深く息を吐き、静かに台座から降りた。道は再び平穏を取り戻し、風が心地よく木々を揺らしていた。


「俺がここにいる限り、この道は守られる」


彼はそう呟きながら、道の奥へと歩みを進めた。鈴を手にしたまま、彼の中には影と共存するという新たな責任が刻まれていた。


未来への静寂


その後、幹線道路は何事もなく静けさを保ち続けた。人々はその道を通り、穏やかな日常を過ごしていた。しかし、道の奥深くでは、一人の守護者が静かに見守り続けている。


三木は決して目立つことなく、その役目を全うしながら、道の安全と平穏を守り続けた。そして、その鈴の音が再び響くことがないよう、永遠に道と共に歩む覚悟を胸に秘めていた。


道は静寂を保ち続け、彼の存在は風と共に語り継がれる——それが、新たな守護者の物語の終わりであり、永遠の始まりだった。

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