第27話 残された痕跡

三木が道を守る日々を送る中で、新たな探求者である若い女性との出会いは、彼の心に少しの希望を灯していた。しかし、道の平穏な表情の裏に、どこか気になるものがあった。彼の胸には、女性が犠牲になり封印が修復されたことで本当にすべてが終わったのかという疑念が、時折浮かんでいた。


ある晴れた午後、三木は再び道を歩き、これまで見過ごしてきた場所を丹念に調べ始めた。封印が完全に機能している証拠を探すためだった。


不自然な傷跡


道路脇を歩いていた三木は、道端にある一本の木に目を留めた。その木の幹には、奇妙な傷が走っていた。まるで何かが爪で引っ掻いたような跡だった。傷は新しく、周囲の木々には同じような痕跡がいくつも見られた。


「これは…?」


三木がその傷を指でなぞると、微かな冷気が指先に伝わった。その瞬間、風もないのに鈴の音のような微かな響きが耳元をかすめた。


「まだ…何かが残っているのか?」


彼の心は一気に緊張で満たされた。封印が修復されたことで道は平穏を取り戻したはずだった。しかし、この傷跡と鈴の音は、道の奥底に何かがまだ眠っていることを示唆しているように感じられた。


三木は木々の間を進み、さらに道の周囲を調べることにした。その先で彼が見つけたのは、小さな石碑だった。


封印の痕跡


石碑は苔に覆われ、年月を感じさせるものであったが、その表面には鈴の紋様がはっきりと彫られていた。そして、その下には崩れた文字が記されていた。


「怨念の影を払い、再び結界を張る者へ。鈴の力を解き放つことなかれ」


三木はその言葉を声に出して読み上げた。その内容は、封印を守る者への警告のようにも、未来の破壊を防ぐための指示のようにも思えた。


「結界を張る者…俺たちのことなのか?」


その時、彼の背後で枝が折れる音がした。振り返ると、誰もいない。しかし、道の奥から霧がじわじわと湧き出してくるのが見えた。


微かな異変


霧はあまりにも静かに、そして不自然な速度で広がり始めていた。三木はポケットにしまっていた鈴を取り出した。鈴は冷たいままだったが、何かが起こる予兆を感じさせた。


「まさか…封印が完全じゃなかったのか?」


鈴を手にしながら、彼は霧の中へと足を踏み入れた。そこには、また別の石碑が隠されていた。それは、以前見たものよりもさらに古びており、文字の多くが読み取れなくなっていた。しかし、その下部に刻まれた小さな文字だけがかろうじて残っていた。


「封印の影響下において残るものあり。それは封じられることなく彷徨い続ける」


三木はその言葉を読み、震えを覚えた。この道には、怨念そのものが消えたわけではなく、封じ込められなかった「影」がまだ彷徨っている可能性があるということだった。


選択のとき


三木は深く息を吸い、霧の中にさらに足を踏み入れた。鈴を手に持つ彼の中には、再び何かに対峙する覚悟が生まれていた。


「もし、まだ何かが残っているなら…俺がそれを終わらせる」


霧はますます濃くなり、鈴がかすかに震え始めた。彼の足元で道は消えかかり、木々が影のようにうごめいていた。


その先には、ただ静寂と、何か得体の知れない存在の気配が漂っているだけだった。三木はさらに奥へ進むべきか、それとも引き返して新たな方法を探すべきか迷いながらも、道の真実に迫るために一歩ずつ足を進めた。


その先で待ち受けるのは、未完の封印の断片か、あるいは道に潜む最後の試練か——三木はまだ知らないまま、霧の中へと消えていった。

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