第26話 新たな探求者
三木が幹線道路を訪れる日々が続いていた。道はすっかり平穏を取り戻し、日常の風景として多くの人に利用されていた。しかし、三木にとってこの道は単なる交通の手段ではなく、女性の犠牲によって守られた特別な場所だった。道のすべてを知る者として、彼にはその真実を守り続ける責任があると感じていた。
ある日、三木がいつものように道を歩いていると、一人の若い女性が道路脇で何かを調べているのを見かけた。彼女はスケッチブックを開き、道の周囲に生えている植物や、路面に刻まれた小さな亀裂を注意深く観察していた。
「ここで何をしているんですか?」
三木が声をかけると、彼女は振り返り、少し驚いた様子で微笑んだ。
「あ、すみません。私、町の歴史や土地にまつわる物語を調べているんです。この道には昔から不思議な噂があって…」
三木の胸に緊張が走った。彼女が道の秘密に近づいているのではないかという予感がした。
「不思議な噂…たとえばどんな話ですか?」
女性はスケッチブックを閉じ、真剣な表情で語り始めた。
「この道ができる前、ここには安息寺というお寺があったって聞きました。そのお寺では、鈴の音を使って何かを封じ込めていたそうです。でも、その封印が弱まったときに、この道で奇妙なことが起きたって…」
三木は冷静を装いながらも、彼女の話に耳を傾けた。彼女の調査は間違いなく道の核心に近づいていた。
「それで、この道を調べているんですか?」
「はい。この道には何か特別な力が宿っている気がして…私自身、それを確かめたいんです」
彼女の真剣な目を見て、三木は迷い始めた。道の真実を知る資格があるのは、このように情熱を持つ者なのかもしれないと思う一方で、真実を知ることで彼女が危険に巻き込まれる可能性もあった。
真実を語るべきか
三木はしばらく考えた後、彼女に向かって静かに口を開いた。
「この道には、確かに何かがあります。けれど、それを知ることで背負わなければならないものもある。あなたは、それでも調べ続ける覚悟がありますか?」
彼女は一瞬戸惑ったが、やがて力強く頷いた。
「はい。私はこの道がどうしてここにあるのかを知りたいんです。そして、ここで何が起きたのかを誰かに伝えたい」
その言葉に、三木はかつての自分の姿を重ねた。彼女には、真実を知る資格があると感じた。
「分かりました。あなたに話しましょう。ただし、この話を軽々しく扱わないでほしい。それを伝えることが、どれほど重い意味を持つかを理解してください」
彼女は深く頷き、スケッチブックを胸に抱えた。
記憶の継承
三木は、女性の犠牲と道にまつわる封印の話を丁寧に語った。安息寺の歴史、鈴の音が持つ力、怨念の封印、そして解放された人々。すべてを話し終えたとき、彼女の目には涙が浮かんでいた。
「その女性は…本当にすごい人だったんですね」
「そうだ。この道が今こうして平穏でいられるのは、彼女のおかげだ」
三木の言葉に、彼女は静かに頷いた。そして、スケッチブックにその物語を書き留め始めた。
「この話を伝える責任は私にもあると思います。この道を通る人たちが、ただの道路ではなく、多くの犠牲と決意の上に成り立っている場所だと知ることが大事だと思うんです」
その言葉に、三木は安心感を覚えた。彼が抱えてきた重荷が、少しだけ軽くなった気がした。
新たな始まり
別れ際、彼女はスケッチブックを抱えながら言った。
「私、いつかこの話を本にしたいと思います。もっと多くの人に、この道の真実を知ってもらうために」
三木は微笑みながら頷いた。「そうしてくれると、彼女も喜ぶと思う」
彼女が去った後、三木は再び道を歩いた。道は穏やかで、鈴の音はもう聞こえない。しかし、彼の心にはいつまでもその音が響き続けていた。
「この道はもう安全だ。でも、その記憶を守り続けるのが俺たちの役目だ」
彼はそう心に誓い、再び光差す道を歩き始めた。その背中には、未来へと記憶を繋げるための新たな希望が宿っていた。
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