第24話 記憶の継承
三木は光差す道を歩き続けていた。幹線道路はその広さを取り戻し、霧も鈴の音も完全に消え去っていた。だが、彼の心の中にはまだ、この道に囚われた日々の記憶が色濃く残っていた。女性が命を懸けて修復した封印を、無駄にしないためにできることは何なのか——それを探しながら歩いていた。
彼が辿り着いたのは、最初に道の異変に気づいた地点だった。あの時から幾度となく鈴の音に導かれ、影と対峙し、村の秘密を知り、そして彼女の犠牲を目の当たりにした。その場所は静寂に包まれ、以前と同じ幹線道路の姿をしていた。
「すべてが元に戻ったのか…」
三木は道端に腰を下ろし、ポケットから女性が最後に残した鈴を取り出した。その鈴は小さく、冷たく輝いていた。鈴を見つめるたびに、彼女の微笑みが目に浮かび、胸が締め付けられる。
村に帰還した人々
翌日、三木は解放された人々が無事に町へ戻ったことを確認するため、村の出口へ向かった。彼らは混乱しながらも、久しぶりに感じる自由な空気に安堵しているようだった。
「三木さん…」
行方不明になっていた男性が、三木を見つけて駆け寄ってきた。その顔には感謝の念がはっきりと表れていた。
「家族に会うことができました。あなたが助けてくれたおかげです」
三木は首を振った。「俺じゃない。あの女性が…すべてを救ったんだ」
彼はその言葉に頷きながらも、感謝の気持ちを伝え続けた。「でも、あなたがここに来てくれたことがなければ、私たちは解放されることもなかったでしょう。本当にありがとうございました」
周囲には、戻ってきた人々が再会を喜ぶ姿があった。母親が泣きながら子供を抱きしめる姿や、長い間行方不明だった仲間同士が肩を抱き合う姿——それらは、女性の犠牲が無駄ではなかったことを証明していた。
真実を伝える使命
数日後、三木は町の図書館に足を運んだ。自分が体験したすべてを記録に残し、この道の真実を後世に伝えるためだ。彼は鈴を机の上に置き、手帳を開いてペンを走らせ始めた。
「これは、ある道に隠された真実の物語だ。この道には、封印された怨念と、それを守るための犠牲があった。その道で出会った一人の女性の決断が、多くの命を救い、封印を修復した——」
彼は女性との旅を思い出しながら、一つひとつ丁寧に言葉を紡いでいった。彼女の勇気、決意、そして家族を思う心。それらを正確に伝えることで、この道が再び呪いに飲み込まれることのないようにしたかった。
記録を書き終えた時、三木は鈴を手に取り、静かに呟いた。
「これで…少しは彼女に報いることができるだろうか」
未来への願い
三木は手帳を図書館の一角に置き、封印された怨念と道の真実を語り継ぐために、それを残した。道の風景が穏やかである今、彼は初めてこの道を振り返り、もう一度女性の最後の微笑みを思い出した。
「ありがとう。あなたの犠牲を決して無駄にしない」
彼は静かに鈴をポケットにしまい、町の静けさの中に歩みを進めた。
道はすでに安全な場所となり、彼女の犠牲は新しい希望を生んだ。そして、その道には、彼女が守った命の数だけ未来が広がっているのだと三木は信じていた。
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