第16話 道の起源を探る

三木と女性は、鈴の音が鳴り響く狭い道を慎重に進んでいた。霧は濃くなる一方で、まるで道が二人を飲み込もうとしているかのように感じられた。女性の手に握られた古びた写真立てが、かすかな希望を象徴しているようだった。


途中、ふと足元に何か硬いものが当たる音がした。三木が足元を見下ろすと、地面の一部がわずかに突き出ているのに気づいた。それは古びた石板だった。二人で協力して霧に覆われた地面を掘り起こすと、そこには何やら奇妙な模様が彫られた大きな石が現れた。


石には古い文字とともに、鈴の形をした紋様が刻まれていた。三木はその文字を読み取ろうとしたが、ところどころ消えかけていて、はっきりとは分からない。女性が震える声で尋ねた。


「これは…いったい何なんですか?」


三木は手帳を取り出し、これまでに得た情報を思い返しながら答えた。


「もしかすると、かつてこの道にあった安息寺と関係があるのかもしれません。あの寺院は鈴を使って封印を行っていたと記録されていました。これがその封印の一部なのかもしれない…」


二人は石板をさらに詳しく調べていると、その下からさらに大きな石柱が現れた。石柱の側面には、鈴を持った僧侶が描かれた彫刻が刻まれており、その僧侶が何かを封じ込めるように手を掲げている様子が描かれていた。


「何かが…封じられている…?」


女性が震える声で呟いた。三木もその考えを否定できなかった。この道はただの幹線道路ではなく、何か巨大な力を封じ込めるための場所だったのだろう。


その時、鈴の音が突然高く響き渡った。「チリン…チリン…」二人はその音に驚き、顔を見合わせた。音は今まで以上に強烈で、周囲の霧が渦を巻くように動き始めた。


「音が…近づいてくる!」


三木はとっさに女性を石柱の陰に引き寄せた。すると霧の中から何か黒い影が浮かび上がり、ゆっくりと二人の方に近づいてきた。影は人型に見えたが、その輪郭はぼやけており、実体があるのかさえ分からない。


「あなたたちも…囚われるつもりか?」


影は低く響く声で話しかけてきた。その声はまるで複数の人々が同時に話しているかのようで、恐ろしい響きだった。女性は恐怖で動けなくなり、三木が震える手で彼女を支えた。


「お前は誰だ…?何がこの道に隠されているんだ?」


三木が問いかけると、影は微かに笑ったように見えた。


「鈴の音が響くのは、この道が崩壊しつつあるからだ。封印が解ければ、ここに囚われたものが現世に解き放たれる。そして、すべてが飲み込まれる…」


その言葉に三木は驚愕した。鈴の音が導いているのは、道を進む者を囚えるためだけではない。封印された「何か」を解放し、現実世界を侵食するためのプロセスだったのだ。


影が近づき、三木たちの周りを取り囲むように霧が濃くなる中、女性が震える声で言った。


「夫と息子は…その囚われたものの一部にされたのですか?」


影は答えず、ただ鈴の音を響かせながら霧の中へと消えた。辺りは再び静寂に包まれたが、三木と女性の心には不安と恐怖が残った。


「この道は危険すぎる…でも、ここで引き返すわけにはいかない」


三木は覚悟を決め、女性に向かって言った。「この先に行けば、真実が分かるはずだ。そして、あなたの家族も見つけられるかもしれない」


女性は涙を拭い、震える声で答えた。「分かりました…行きましょう。必ず、彼らを見つけます」


二人は再び道の奥へと進んでいった。その先には、さらに濃くなる霧と鈴の音、そして封印が解かれるかもしれない危機が待ち受けていた。

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