第15話 消えた家族の証言
三木がさらに道を進むと、霧は一層濃くなり、視界はほとんど利かなくなった。鈴の音は途切れ途切れに聞こえ、まるで道そのものが彼を試しているかのようだった。道が狭まり続ける中で、三木はふと気づいた。これ以上進めば、恐らく自分も戻れなくなるのではないかという恐怖が頭をよぎった。
その時、遠くから人の声が聞こえた。それは子供の泣き声のようにも、助けを求める叫び声のようにも聞こえた。三木は音の方向へと急いだ。
霧の中で現れたのは、ボロボロの服を着た女性だった。彼女の目は虚ろで、疲れ切った様子だったが、三木の姿を見ると助けを求めるように手を伸ばしてきた。
「助けてください…」
三木は驚きながらも彼女に近づき、声をかけた。「あなたはどうしてこんなところに?ここで何があったんですか?」
女性は怯えたように辺りを見回しながら語り始めた。「私の家族が…この道で消えたんです。夫と息子が…夜中に鈴の音を聞いたと言って出かけたきり、戻ってきませんでした。私は彼らを探すためにここに来たんですが…」
話を聞きながら、三木の背筋に寒気が走った。行方不明者たちの謎に迫る中で、こうして直接話を聞くのは初めてだった。
「それで、何か手がかりを見つけたんですか?」
女性は首を振った。「ここに来てから、奇妙な影を何度も見ました。霧の中で夫の声が聞こえることもありました。でも近づこうとすると消えてしまうんです。まるで、この道が私を試しているかのように…」
三木は彼女の言葉に耳を傾けながら、鈴の音がもたらす力が、ただの現象ではないことを改めて確信した。この道には、何か邪悪な力が隠れているのだ。
「家族を見つけるために、この道の奥へ進むつもりですか?」三木が尋ねると、女性は震える声で答えた。
「怖いです。でも…進むしかないんです。あの二人を助けるためなら、どんなことでも…」
三木はその覚悟に心を打たれた。同時に、自分が進むべき道もまた、この女性と同じだと感じた。行方不明者たちを救うためには、鈴の音が誘う先に進むしかない。
「一緒に行きましょう。この道の謎を解き明かして、家族を取り戻すために」
女性は涙を浮かべながら頷いた。二人は手を携え、さらに奥へと歩みを進めた。鈴の音が再び響き始め、道幅はさらに狭まっていく。
途中、道端に古びた写真立てが落ちているのを見つけた。写真の中には、女性と夫、そして小さな息子の姿が写っていた。しかし、写真の顔が一部ぼやけており、消えかかっているように見えた。
「これは…夫と息子です」
女性が写真を拾い上げ、震える手で握りしめた。その目から再び涙が流れた。
「彼らがまだこの道のどこかにいるのなら…絶対に見つけ出します」
三木はその決意に応えるように頷き、再び歩みを進めた。しかし、その先にはさらに深い霧が立ち込め、鈴の音は不規則に鳴り響いていた。
「この先に、何があるのか…」
二人は恐怖と緊張に包まれながら、鈴の音が導く道の奥へと進んでいった。その先には、彼らが知りたくもない真実が待っているかもしれない。しかし、戻ることはできないと、二人とも悟っていた。
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