第17話 禁忌の土地
鈴の音が遠くから不規則に響く中、三木と女性はさらに狭くなった道を進んでいた。足元は湿った苔に覆われ、道幅はわずか1メートルほどしか残っていない。木々が押し寄せるように迫り、まるでこの道そのものが彼らを飲み込もうとしているかのように感じられた。
途中、霧の中にぼんやりとした古びた鳥居が現れた。鳥居は半分崩れかけており、苔に覆われた石の階段がその奥へと続いていた。三木は鳥居を見つめながら、これが安息寺の跡地かもしれないと直感した。
「ここが…?」
女性もその異様な雰囲気に圧倒されながら呟いた。鳥居の向こうから、鈴の音が再び響き渡った。「チリン…チリン…」音は規則性を失い、不気味なリズムで二人を誘うように鳴り続けていた。
三木は意を決し、鳥居をくぐって階段を上がり始めた。女性も彼に続く。階段の先には広場があり、その中央に巨大な石の台座が立っていた。台座には無数の鈴が付けられており、風もないのに揺れて音を立てている。
「これが…安息寺の封印…?」
三木は台座に近づき、刻まれた古い文字を見つけた。それは読めないほど風化していたが、「封印」「怨念」「解放」といった単語がかすかに判読できた。
「この封印が…崩れつつあるんですね…」女性は恐怖で声を震わせながら言った。
「鈴の音がそれを知らせているんだ。そして、この道が狭まるのも、封印が完全に解かれる過程の一部だと思う」三木は険しい顔で答えた。
その時、周囲の霧が一瞬のうちに渦を巻き、広場全体を覆った。鈴の音が一層強まり、風が吹き荒れるような音が辺りを支配した。二人は霧の中に立ちすくみ、息を呑んだ。
「何かが近づいている…」
三木が呟いた瞬間、霧の中から再び影が現れた。今回は一つではなく、複数の影がゆっくりと二人を取り囲むように動いている。その影たちは、ぼんやりと人間の形をしていたが、輪郭が歪み、どこか不自然だった。
「夫…息子…?」女性が恐る恐る影に手を伸ばすと、影の一つがわずかに反応し、彼女に向かって動き出した。
「戻れ…この道の真実は…お前たちを飲み込む…」
影が低く響く声で言葉を放つ。その声は、複数の人間が重なったように聞こえ、恐怖を煽るような響きだった。三木は女性の手を引き、後退りしながら問いかけた。
「お前たちは誰だ?道に囚われた者たちなのか?」
影は答えず、ただじっと二人を見つめていた。そして、その中の一つがゆっくりと口を開いた。
「この土地は禁忌だ。封印は崩れ、怨念が解き放たれる…お前たちも、その一部になるだろう…」
その言葉に三木は戦慄を覚えた。封印が崩壊することで解放される「何か」が、この道の背後に隠されている。彼らが進むたびに、鈴の音が封印の崩壊を告げ、道がさらに狭まっていくのだ。
「どうすれば封印を守れるんだ…?この道の真実を知るためには何をすればいい?」
三木が必死に問いかけると、影は静かに霧の中へと消えていった。残されたのは鈴の音と、風に揺れる台座の鈴の音だけだった。
「私たちがこの道を進むことで、封印をさらに壊してしまっているのかもしれない…」
女性が不安げに言った。三木はその言葉を否定することができなかった。自分たちの存在が、この土地のバランスを崩している可能性は否定できない。
しかし、それでも彼は進む決意を固めた。「行方不明になった人々を放っておくわけにはいかない。この封印の真実を突き止めるしかない」
二人は台座を背にし、さらに霧の奥へと歩を進めた。鈴の音が次第に乱れ、道はますます狭く、歪んでいく。彼らが向かう先には、まだ誰も見たことのない禁忌の真実が待ち受けているのだろう——それを確かめるために。
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