第14話 道の変化に気づく者
霧が濃く、鈴の音がますます耳元で強く響く中、三木は狭まる道を一歩ずつ進んでいた。標識や地形が消え、現実感が薄れていく中で、彼の足元にかすかな違和感が広がる。それは、道そのものが微妙に揺らいでいるような感覚だった。
ふと、道の先からぼんやりとした光が見えた。三木はその光を目指して慎重に歩みを進めた。すると、霧の中から誰かが現れるのが見えた。暗がりの中でその姿を確認すると、それは道の異変に気づいて調査を行っている、別の人物だった。
「…君も、この道を調べているのか?」
三木が声をかけると、その人物は驚きつつも、静かに頷いた。その男は高橋と名乗り、彼もまた幹線道路の奇妙な現象に興味を持ち、調査しているということが分かった。二人は道端に腰を下ろし、これまでに体験したことを語り合い始めた。
「この道、普通の道路だった頃を覚えてるんだ。だけど、ある時期から奇妙な噂が増え始めたんだよ。鈴の音を聞いたとか、人影を見たとか。それがどんどん頻繁になっていった」
高橋は苦々しい顔で続けた。「そして、数年前に最初の行方不明者が出た。それ以降、この道には近づかないほうがいいと言われるようになったけど…俺も気になって仕方がなくてね。いろいろ調べてみたら、この道には何かしらの『境界』があるんじゃないかと思うようになった」
「境界?」三木は聞き返した。
「ああ。この道は、現実と別の次元をつなぐ何かだと思う。鈴の音はその境界を保つための合図で、でも最近、その音が不規則になってる。道が狭まっているのも、何かがこちら側に侵食してきている証拠かもしれない」
三木はその言葉に戦慄を覚えた。もし高橋の言うことが正しければ、この道の奥に進むことは、自分が現実から切り離される危険を伴うということだ。
「でも、俺はその奥に何があるのかを確かめたい」と高橋は言った。「行方不明者たちが消えた理由を突き止めなきゃならない。俺は、道の奥で真実を見つけるつもりだ」
三木は高橋の強い決意を感じ取った。そして自分もまた、鈴の音が導く先にある真実を見届けたいという気持ちを再確認した。
その時、鈴の音が再び響き渡った。今度は二人の耳元で交互に響くように聞こえ、まるで彼らを別々の道へと誘うかのようだった。音に従いながら進むと、霧の中で再び道が二手に分かれているのを発見した。
「分かれ道か…」
高橋は一瞬躊躇した後、「俺は右に行く」と言った。彼は三木に軽く手を振ると、鈴の音が響く方向へと進んでいった。
三木は一人残され、左の道を進むことを選んだ。道はますます狭くなり、木々が押し寄せてきているように感じられる。足元には苔が生え、地面は湿っぽく、不気味な空気が充満していた。
その時、彼の目の前に突然、新しい標識が現れた。「幅員 1.5m」と書かれているが、文字はほとんど滲んで見えない。道が狭くなるたびに、この世界が何かに侵食されている感覚が強くなる。
進むうちに、三木はふと足元に違和感を覚えた。地面がわずかに傾き、足を取られそうになる。その瞬間、背後から再び鈴の音が響いた。「チリン…チリン…」
音は徐々に近づいてくる。三木は振り返ると、薄暗い霧の中からまた影が現れるのを目にした。それは先ほど高橋が言っていた「境界」に触れてしまった人間の姿ではないかという直感が走る。影は彼をじっと見つめたまま、手を差し出してきた。
「これが…何を意味しているんだ?」
三木は影と向き合いながら、一歩も動けなくなった。鈴の音が耳を刺すように鳴り響く中で、道が彼をさらに奥へと誘っているように感じた。
そして、三木は決意を固めた。「行こう。この道の真実を見届けるために」——そう呟き、彼は再び影の先に足を踏み出した。道はますます狭くなり、真実へと繋がる鍵がすぐそこに迫っているようだった。
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