第10話 鈴の音と行方不明者の関係
幹線道路への恐怖と執着が強まる中、三木は夜ごとその道を訪れるようになっていた。鈴の音、影、そして道が自ら狭まっていくような不気味な現象——すべてが彼を、まるで蜘蛛の巣のように絡め取ろうとしているかのようだった。
三木は、これまで行方不明になった人々の失踪と鈴の音に、密接な関係があることを確信し始めていた。特にカフェで聞いた「鈴の音を聞いた者が姿を消す」という話が、彼の中に不安の影を落としていた。
その夜、三木はこれまで以上に注意深く、音を頼りに道を進むことにした。いつものように道路は闇に包まれ、まばらに立つ街灯がかすかな光を落とすだけだった。周囲には誰もいない。ただ、三木と彼の足音、そして時折響く「チリン…」という鈴の音が空気を満たしていた。
「この鈴の音が、行方不明者たちを呼び寄せているのか…?」
そう考えながら進んでいると、ふと道の片隅に何かが見えた。暗がりの中に、誰かが立っているようだった。息をのんで近づくと、それはひどく薄暗く、ぼんやりとした人影だった。だが、驚いたことに、その姿にはどこか見覚えがあった。
「佐々木さん…?」
思わずそう呟くと、人影がこちらを振り向いた。その顔ははっきりと見えなかったが、手に鈴を持っているのが見えた。佐々木の手帳に記されていた鈴と同じものに違いなかった。しかし、その鈴はまるで三木を誘うかのように鳴り響き、影は再び道の奥へと姿を消した。
三木は無意識にその後を追い始めた。足元は次第に不安定になり、道幅はますます狭くなっていく。気づけば彼の肩幅すらも超えないほどに道は縮まり、まるで彼を飲み込もうとしているかのようだった。
そして鈴の音は、まるで耳元で囁くかのように一層強く響き始めた。音が頭の中で反響し、逃れられないような錯覚に襲われる。その時、不意に彼の視界がぼやけ、次の瞬間には霧に包まれていた。
「ここは…どこだ?」
道が歪み、まるで別の空間に入り込んでしまったかのような感覚に陥る。目の前に広がる景色は、三木が知っている幹線道路とはまるで違っていた。まばらな街灯も消え、彼を囲むのは深い闇だけだった。
その時、闇の中からまた別の人影が現れた。それは彼が以前にカフェで聞いた、行方不明者とされた吉田の姿だった。吉田の影もまた鈴を持ち、その音に誘われて彼の周りを漂い始めた。まるで彼を取り囲むように、次々と消えた人々の影が現れる。三木は思わず後ずさりし、恐怖に駆られた。
「君たちは…本当に、行方不明になった者たちなのか?」
答えはない。ただ鈴の音だけが彼の頭の中で増幅し、耳鳴りのように響く。影たちは口を開くことなく、無言で彼を見つめ続けていた。そして彼の周りをゆっくりと、同じリズムで回り始めた。
鈴の音が彼の心臓の鼓動と共鳴し、胸が締め付けられるような痛みに襲われる。彼は足を引きずるようにして、どうにかその場を離れようとしたが、足元が見えないほど闇が濃く、道がどこに続いているのかすらわからなかった。
その瞬間、最後の鈴の音が「チリン…」と響き、影たちは霧とともに消えた。辺りは再び静寂に包まれ、三木はただ一人、暗闇の中に取り残された。
彼は足元に震える手で懐中電灯を向け、周囲を確認したが、そこには誰もいなかった。ただ、鈴の音が耳に残り、心に恐怖と絶望がじわじわと染み渡っていった。
幹線道路に隠された真実とは何か——そして、鈴の音に誘われて消えた人々は、果たしてどこに行ってしまったのか。三木は、目の前に広がる深い闇と向き合いながら、自分がその謎に飲み込まれつつあることを感じ始めていた。
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