第6話 消えた探検家の記録

翌朝、三木は昨夜の出来事に呆然としながらも、どうしても心の中で収めることができなかった。あの影、鈴の音、そして道がまるで生きているかのような感覚。幹線道路に何が隠されているのかを確かめずにはいられなかった。


図書館での手がかりを辿り、三木は再び行方不明になった探検家、佐々木隆史についての情報を探すことにした。手帳の記録から察するに、佐々木もまた鈴の音に引き寄せられ、道に深く入り込んでいたようだ。


彼は地元の図書館に戻り、さらに古い新聞や未解決の失踪事件に関する資料を読み漁った。その中で、佐々木の失踪に関する新しい手がかりを発見した。失踪する直前に、佐々木が町の人々に「謎の鈴の音を聞いた」と話していたことが記録されていた。そして、道の奥に「真実」があると感じ、夜ごと調査を続けていたという。


さらに、佐々木が失踪する直前に通っていた地元の小さなカフェのマスターから話を聞けるかもしれないと知り、三木はそのカフェを訪ねることにした。


カフェは古びた外観で、店内もどこか懐かしい雰囲気が漂っていた。年配のマスターは、三木の話を聞くと、少し考え込んでから語り始めた。


「佐々木さんね…確かにここによく来ていたよ。あの人は道の謎に取り憑かれたように、毎晩あの幹線道路を歩き回っていた。『鈴の音が聞こえる』って言ってたね」


「その鈴の音について、何か他に聞いていませんか?」と三木は身を乗り出して聞いた。


「鈴の音が鳴る時、道が少しずつ狭まるって言ってたな。まるで、道が自分に迫ってくるようだって。でも、ある日突然、佐々木さんは来なくなった。あの道で消えたって噂されてたよ」


マスターの話を聞き、三木の中に不安と興味が入り混じった感情が沸き上がった。佐々木が感じた恐怖と謎に対する好奇心、それは今の自分と全く同じだった。彼は、佐々木が追いかけていた「真実」に触れたいという強い衝動に駆られた。


その夜、三木は再び幹線道路に向かった。暗闇に包まれた道を歩きながら、彼は佐々木が感じたであろう不安と興奮を思い浮かべていた。そして、ふと道端に立つ標識が目に留まった。そこには「幅員 3.5m」と記されていたが、どこか異様な感じがした。いつも見慣れているはずの表示が、妙に歪んで見えるのだ。


さらに進むと、再び鈴の音が聞こえてきた。「チリン…チリン…」その音は三木を呼び寄せるように、道の奥へと誘っている。


心臓が高鳴り、冷や汗が流れる中で、三木は一歩ずつ音の方に歩みを進めた。道はやはり狭まっているようで、両側の木々が押し寄せ、闇がどんどん濃くなっていく。音が近づくたび、三木の視界が少しずつぼやけ、道の形が歪んでいく感覚がした。


そして、彼は突然、何かに足を取られたように転んだ。起き上がろうとした時、足元に何かがあることに気づいた。それは…古びた懐中時計だった。どこか錆びていて、動かなくなっているが、鈴の飾りが付いているのが目に入った。


「これが…佐々木のものか?」


手に取ると、鈴がわずかに揺れ、「チリン」とかすかな音を鳴らした。その瞬間、三木は背後に冷たい気配を感じた。恐る恐る振り返ると、そこには再びあの影が立っていた。影は何も言わず、ただ彼を見つめている。


三木は懐中時計を握りしめ、恐怖に耐えながら影に向かって一歩踏み出した。しかし、その瞬間、影は再び霧のように溶け、暗闇の中へと消え去った。


残された静寂の中で、三木は手の中に残る懐中時計を見つめた。この時計が、佐々木が最後に触れたものであり、失踪の真実に繋がる手がかりであることは間違いなかった。そして、鈴の音とともに消えた探検家の足跡を辿る決意を新たにした。


道に飲み込まれた真実は、確実に彼の手の中に一歩ずつ近づいている気がした——ただし、それが何をもたらすのかはまだわからないまま。

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