第5話 幹線道路の異変
手帳に記された佐々木の最後の言葉に不安を募らせながらも、三木は自らの足でこの道の謎を解き明かしたいという思いを押さえきれなかった。佐々木と同じように、鈴の音に引き寄せられ、幹線道路を夜ごと訪れるようになっていた。
その夜も、幹線道路は静まり返り、どこか異様な雰囲気が漂っていた。道路の両脇にはかすかな霧が立ち込め、月明かりすらほとんど届かない闇が周囲を包み込んでいる。三木は歩きながら、周囲に耳を澄ませていた。あの鈴の音が聞こえたら、その音を追ってみようと考えていたのだ。
しばらく進んでいると、彼の足がふと止まった。目の前に、道路の幅が異様に狭くなっている場所が現れたのだ。昼間の幹線道路の広々とした雰囲気とは異なり、まるで道が意思を持つかのように、道幅がどんどん狭くなり、彼を閉じ込めようとしているかのようだった。
「これは…まるで道が息をしているようだ…」
三木はそう呟き、狭まる道の異様さに身をすくませた。すると突然、背後から鈴の音が響いた。「チリン…チリン…」音は一定のリズムで、三木の背後から迫ってくる。彼は一歩ずつ音の方に振り返りながら、緊張で呼吸を止めた。
しかし、振り返ってもそこには何も見えない。ただ、鈴の音だけが徐々に大きく、鮮明に聞こえる。
「誰かいるのか…?」
そう呟くと、鈴の音は途切れ、闇の中に再び静寂が戻った。しかし、その瞬間、道のさらに奥に、もう一つの人影が見えた。影は人の形をしていたが、よく見ると、まるで道と同化するようにぼやけていて、その正体が掴めない。三木はその影に向かって一歩踏み出した。
「おい、そこの君は…」
声をかけると、影がわずかに動き、三木のほうに顔を向けたように見えた。しかし、その顔には目や口がなく、ただ真っ黒な穴のように虚ろだった。三木の背筋が凍りつく。まるで影そのものが道の暗闇から生まれたかのような、異質な存在感を放っている。
「…何なんだ、これは…」
三木は後退ろうとしたが、鈴の音が再び響き渡った。今度は、彼の耳元で「チリン…」と鳴り響く。冷や汗が額から流れ、逃げ出したいという本能が彼の中で湧き上がったが、足はまるで何かに縛られているかのように動かない。
影がゆっくりと三木の方へ近づいてくる。恐怖に囚われ、身動きが取れなくなった彼の目の前で、影は徐々に形を変え、何かを告げるかのように手を差し出してきた。その手には、鈴の小さな飾りがぶら下がっていた。
「……あれは…」
鈴の音が一層強まり、道全体が暗闇に飲み込まれそうな錯覚を覚える。三木は恐怖と好奇心の狭間で立ち尽くし、目の前の影に目を奪われていた。その時、不意に影が手を引っ込め、霧の中へと溶けるように消えた。
ただの静寂が戻り、三木はその場に一人取り残された。鈴の音も、影も消えたが、彼の中に残るのは、道そのものが何かを伝えようとしているという不気味な感覚だった。
この道の謎を追い続けることが、自分をどこへ導くのか——三木はますます深みに引き込まれていく予感を抱きながら、再び幹線道路を後にした。
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