Zの恋愛

ぬのむめさうか?

第1話 ゼットン

「きっとさ、結婚なんてもうしなくていいんだよ。」


中村悠陽は、そう言った。27歳で、彼氏はいない。最後に作ったのは大学頃で、社会人になってからは作らなくなった。こんな不況だから、お金もないし、貯金も出来ない。こんなので、みんなどうして彼氏を作ろうと思えるのかと頭を抱える。友達は、


「え?ディスコ行けば男が奢ってくれるし、マッチングアプリもそうでしょ?彼氏なんて作り得じゃん!」


と言っていた。言っていることはわかるのだが、私は苦笑いをするしかなかった。マッチングアプリは一時期やっていたけど、楽しくもないのに相手に全て出してもらうことに気が引けて、結局ほとんど毎回半分出してしまう。お財布の中身はいつも寂しい、きっと上手くやる人ならブランドバック片手にホテルのディナーを楽しんでいるのだろう。つくづく自分には縁のない話だ。そんな風に落ち込みながらも友達と遊んでいれば楽しいやと思い、マッチングアプリは消してしまった。


「どうせタダだしね。」


その代わり今日急にポテトサラダを作ろうと思いいたり、ボウルの中で芋を潰している。切った胡瓜やハム、卵を混ぜ合わせるのは辛い、毎回誰かにやって欲しくなる。マヨネーズは控えめ、味が薄いほうがお酒の当てにはいい、別に今日すべて食べ切ってしまうわけでもない。今は食べないからタッパに入れて冷蔵庫にしまう。


「…ああ、腕が痛い。」


普段のちょっとしたストレスを解消するために作り出しのはいいが、やっぱりかなり疲れる。作るたびに後悔している。馬鹿なんじゃないかと凄く思う。そんな私の姿を、コーヒー片手に眺めている奴。これ世良飛鳥、性別男。大学時代に出会った変人。顔はかなり良いから、大体隣に女の子がいた。男友達といたのはあまりみたことがない。講義の席で一緒になり、私がノートに模写した教授の顔を模写して、平凡な顔過ぎてあまりにもつまらなかったので、想像で段々と老けさせていった。満足のいくロマンスグレーになったと思う。うん、絶対こうはならない。彼はその過程をずっと観ていたようで、講義中に


「何書いてるんですか?」


と話しかけてきた。やばい、みられたと思った。もちろん悪いことをしているわけでないし、こいつに責められる言われもない。でもしまったと思った。咄嗟に


「教授の顔を老けさせているんです」


そのままを口にしてしまった。


「へ〜。器用なもんですね、それによくこんな遠くから見えますね。」


口調から感心していることがわかる。どうやら授業中の落書きを注意したかったわけでも、私を笑いものにしたかったわけでもないらしい。


「私、目はいいんです。」


講義室の前から10番目くらい。ぱっと見顔の判別なんてほとんどつかないのが普通だろう。でも私は大体見えるから大体で書ける。想像でかく。


「変な人ですね。」


ここで気がつく、彼の頭には室内でかけるわけでもなくサングラスが乗せられていた。貴方、室内でもサングラスかけるんですか?と言いたくなり、


「貴方、室内でもサングラスかけるんですか?」


聞いてしまっていた。それがきっかけなのか、講義のたびに雑談するようになった。変人同士、気が合ったのだろう。自分が大体アバウトに世の中の人間と違っていることは、中学生くらいには気がついている。そんなやつと話そうというのはそれだけほぼ変人だ。そして私の中の彼の変人は、あの室内で頭に乗せたサングラスから始まった。そんなこんなのある日、オシャレな喫茶店での出来事。


「毎回、女の子隣に連れてるよね?そんなにモテるの?」


気軽な間柄になって、そんな踏み込んだ質問も全然するようになる。


「いや、別にそういうんじゃないよ。なんでかな男とは、あんまり話が合わないんだよ。毎回おんなじ事じゃべっているし、会話に飽きるんだよね。女の子といた方がいっぱい話題も触れるし、聞けるし、だから楽しいし、やっぱり話も合うから。」


モテるのは大抵こういうやつだと思う。聞き上手で、話好き。ここで衝撃の言葉が続いた。


「あと俺実はさ、ボッキ出来ないんだよね。」


周りの席の人が不意に振り向く、サングラスが更新された瞬間だった。


「え?男が好きなの?」


この返しは流石に無かったなと後で反省した、家に帰って2時間くらいこのことを考えて、寝る直前にまたしまったなぁと思った。まぁ彼はニヤリと笑っていたんだけど…

それから何故か輪をかけて仲良くなり、あいつは彼女だのなんだの言われたが、全く気のいい友という感じで……

現在に戻る。なぜコイツは手伝わないのか、ちゃっかりおつまみように作った先ほどのポテトサラダを小皿に分けていつでも食べられるようにしている。


「あのさ、飛鳥。ポテトサラダ自分の分取り分けるなら、私の分も取り分けてよ。」


そういうと、戸惑ったようにポテトサラダと私を交互に見つめている。こいつは気が効くのか効かないのかわからないところがある。察しはいいから、考えていることを見透かされることはある。でもこういうところ、こういうところが気が利かない。


「え?悠陽の分もよそったほうがよかった?」

「いや…っ」


いや、そう言うことじゃなくてさ…!という言葉をすんでのところで飲み込んだ。どうせ言ってもわかってなんてくれない。人間なんて所詮は分かり合えないように作られているんだ。


「いいけど、作ったやつ向こう持っていって」

「ああ、うん。」


飛鳥にはこうして、たまに一緒に家で食事をして、話し相手になってもらっている。独身だし、当分マッチングアプリなんてする気はないが、でも話し相手は欲しいのだ。人間所詮、1人ではいられないのだろう。


「並べ終わったよ。」

「はい、ワインこれも持っていって」

「は〜い」


素直ないいやつなのだ。

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ゼットン 続く


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