第5話 移動と電話

 経験豊富だからといって絶倫とは限らないし、またその逆も真なり。さっきデビューしたばかりのこの弱冠。その生命力という堤防は、綾乃との邂逅によって決壊した。


「綾乃さん、もっとあなたを知りたい……です」


「嬉しい……」


(ピロリロピロリロ ピロリロピロリロ)


 二人の声とは全くトーンの違う無機質な電子音が響く。綾乃が携帯を取る。


「ごめん、アラームしてたのすっかり忘れてた。20分後にはここ出ないといけないの。7時半までにレンタカー返さないといけないから」


「そうなんです……か」

 

「うん……でも、足りない……よね?」


「はい……でも、仕方ないですよね……」


「とりあえず、ここからは出ようか」


「あ、はい……」


「涼介ちゃん、今日と明日のご予定は?」


「すみません、明日は朝からサークルのイベントの準備があって、自分が責任者なので欠席できないんです」


「そうなんだ。それは絶対行かなきゃだね……」


「でも、今日は何も無いので僕の部屋に行きましょう!」


「そうなんだ。最寄駅は?」


「つくばエクスプレスのつくば駅です。JRじゃないです」


 土浦で車を返却すると、タクシーで涼介の部屋に向かった。


「お腹減らないの? 晩御飯とか大丈夫?」


「はい、減ってますけどご飯はいつでも食べられるので今は後回しにしたいです」


「あはは……でも、私もそうかも」


 二人で目を合わせて笑った。



 ◆


「すごい、綺麗にしてるのね!」

 

 駅の南側エリアにマンションは有った。学生の一人暮らしということであまり期待していなかった綾乃だったが、亮介の部屋の綺麗さはちょっとした驚きだった。


 涼介はもう我慢しきれない様子で綾乃を抱きしめる。


「ちょっと、ちょっと待って。お願いがあるの」


「え、なんですか?」


「夫に電話しながら……でもいいかしら?」



 ホテルからの帰りの車中、自分たち夫婦の趣味について涼介には説明済みだ。全く理解できないという反応だったが、意欲に溢れる若者には好奇心をそそるものがあったようで、協力するという約束は既に取り付けてあった。

 涼介の手を引いたのち、ベッドに立つと壁に背をもたれかけるようにして座る。綾乃の目は涼介を見つめたままだ。


「どう? 言わなくてもわかってきた頃かしら。できる?」


「はい!」


 堰を切ったように飛びつく涼介の髪を撫でながら、綾乃は亮介に電話をかけた。

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