第2話 頂上での出来事

 30分ほどすると前方に筑波山が見えてくる。右折して県道42号線に乗りしばらくすると、山道に差し掛かってくる。それほど激しくないワインディングを抜けて山の中腹部にある駐車場に到着した。車の鍵を締めて振り返ると、思っていた以上に高いところまで来ていて驚く綾乃だった。

 

 

 参拝を済ませ、御朱印をいただいてほっと一息をつく。

 

 (一人で神社も悪くないな)


 そんなことを感じながら水を飲んでいるとケーブルカーの看板が目に入る。綾乃は、結局乗れなかったRのためにせめて車窓からの写真でも撮っておこうと考えた。


 最初に見えた階段を登り切り道なりに進むと、実はまだまだ上まで登らないといけないと判る。一瞬諦めようかと思いながら、Rのことを考えて決心する。履いて来たのがスニーカーでよかった、と綾乃は心から思った。




 ◆




 ケーブルカーは定刻通り発車すると同時に自動音声で車内放送が流れる。年季の入ったスピーカーの調子がいかにも観光地に来た気分にさせてくれる。開いた窓から入り込んでくる涼風は天然のエアコンのように爽やかで、全身の汗を乾かしていく。

 周囲の乗客は家族連れやカップルが数組いて、一人で乗車しているのは綾乃ぐらいだった。窓から見える前後左右を撮影しているうちに車両は山頂駅に到着した。



(わぁ、さっきと全然違って空が広い……)


 景色に感動してもそれを声に出すのはなかなか難しいのが一人旅の辛いところだ。食事は電車内で済ませておいたのは幸いだった。西には男体山、東は女体山の頂上へ続く道。展望台からは北側と南側を望むことができる。


 ひとしきりした後、綾乃はベンチに腰掛ける。


(まだ時間はあるし、せっかく登ったから頂上に行ってみようかな)


 そんなことを思いながら地図を広げようとした時だった。




 ザッ――。


 

 あまり聞きなれない音の方に目を向けると、数メートル先で女性が横向きに倒れている。


「大丈夫ですか!?」


 綾乃は駆け寄り声をかける。近くにいた数人も集まった。他に女性がいないので綾乃がすぐに心音と呼吸を確認する。停止状態ではないことがわかると、側にいた男性に声をかけた。

 

「すみません、駅員さんに119番してもらうようお願いできますか? 心肺は止まってはないみたいです」

「はい、わかりました」


 返事をしながら男性はケーブルカーの駅へと走る。倒れた女性には外傷は無いが、顔面蒼白で意識があるかどうかは微妙なところだ。


「大丈夫ですか? 痛いところはないですか?」


 今の自分にできることはないかと考え、綾乃は女性に呼びかけ続けた。男性が駅員と戻ってきたその時、女性の目が開いた。


「あ! 大丈夫ですか!?」


 本人の話ではどうやら貧血のようだ。よくあることらしいがとにかく意識があってよかった。あとは駅員が全て引き継ぐということで解散となった。


(なんだか今日はいろいろある日だな)


 そう思いながら時計を見ると3時を回っていた。


「一人でやることもあんまり無いし、帰ろうかな」


 そう小さく呟いた。

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