綾乃のおでかけ 1 女友達と御朱印と筆

宿羽屋 仁 (すくわや じん)

第1話 予想外

「Rちゃん、こっちこっち」


 綾乃は友人Rを見つけ、右手を左右に大きく振りながら声をかける。合流し、矢継ぎ早の近況報告を交えながら歩き始める。 

 

「割とすぐ着くんだよね」

「うん。1時間もかからない感じ。お弁当食べるには十分だと思う」

 

 東京駅12:23発の特急に乗車。土浦で下車したらレンタカーを借り、ご朱印帳をいただきに筑波山神社に向かう段取りだ。


「綾乃ちゃんは行ったことあるの?」

「子供の頃に連れられて来たと思うんだけどね、全然覚えてないんだよね」

「そうなんだ。じゃ初めてみたいなものだね。私、ケーブルカーもロープウェイも乗ったことないからそれも楽しみ」


 話に花を咲かせていると、Rの携帯電話が鳴る。


「ごめん、ちょっと電話出てくるね」

「はーい」


 綾乃はRが自動ドアの外に出ていく背中を見送った後、車窓の外へと視線を移す。前回Rと別の神社に行った時はT君と神戸で密会する前のことだったと思い出す。


(あたしも随分変わっちゃったな)




 ◆



「ごめん、お待たせ。綾乃ちゃんごめん、ほんとごめん」

「え、え、どうしたの? ちょ、ちょっととりあえず座って」

「うん、ありがとう、でも本当に申し訳ないんだけど、おばあちゃんが倒れたって連絡があったの。今からすぐ病院に向かうことになっちゃった……」

「ええ! それは大変じゃないの、いいよ私は大丈夫だから気にしないで」

「ありがとう、ごめんね。ずっと楽しみにしてたのにすごく残念」

「また時間見つけて行けばいいからいいんだよ。土浦着いたら一緒に帰ろう」

「いやそんなのいいのよ。レンタカーだって借りてるし、綾乃ちゃんも病院に行くわけでもないし」


 そんなやりとりを経て電車は土浦駅に到着する。Rは文字通りとんぼ返りとなり、綾乃の予想外の一人旅が始まった。レンタカーを借り、カーナビをセットする。普段は助手席で亮介を見ることが多い綾乃。見知らぬ街を運転するのは少し心許ない。


 「ちょっと心配だけど、頑張れ私」


 綾乃は左右をそれぞれ3回確認して、アクセルをゆっくりと踏んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る