実習授業


 農業科の校舎の裏側。そこに五十アーレン四方(約三十メートル四方)の小さな菜園がある。これが実習の場だ。


 校庭に軍楽隊のファンファーレが響く。


 ウルリカ、アンナ、近衛兵の三人は、軍楽隊の勇壮な演奏に合わせ、足並みを揃えて登場する。三人の服装は、麦わらとスカーフの半帽、長袖のシャツに薄紺のエプロン、そしてベージュのズボンと黒の長靴。演奏の終了に合わせ、三人とも農具を担いでポーズを決めた。その中心はウルリカである。


 教師は唖然とする。


「……何だ?」

「なっ、何ですかアレ」


 カリンもまたポカンと立ち尽くしていた。農民であるカリンでさえも、見たことがないような服装だったからである。


「……今年の王族は、気合い入ってんな」


 教師はボソリとそう言った。


 何事かと、他の校舎から多くの視線が集まる。まるで見世物のようである。


 ウルリカは恥ずかしさに顔を真っ赤にしながら、アンナに小声で尋ねた。


「……こんなことやる意味ありまして?」

「目くらましですよ、殿下。例の件を考えれば、カリンさんより殿下が目立つぐらいが、ちょうど良いのです。ちなみにこの服装は、二十一世紀の日本の農家スタイルのアセットを参考に、服飾職人に作らせたものです」

「後で覚えてなさい」


 ウルリカはニッコリと王妃スマイルを浮かべた。


「よし、では実習を始めるぞ。やることはとてもシンプルだ。何種類かの野菜の苗を植え付け、二年の秋学期に収穫する。畝は三つ用意した」


 教師はそう言って、畝を一つずつ説明する。


「まず、これが去年豊作だった畝。次に、これが去年マメとクローバーを植えた畝。そして、これが黒色火薬を撒いた畝だ」


「へ?」

「火薬?」


 カリンとウルリカはきょとんとする。


 しかし、教師は意気揚々と腰に手を当てた。


「理由が気になるか。理由はただ一つ――」


 次の瞬間、教師の背後で大爆発が起きる。

 

「――農業は爆発だ! だーっはっはっは!」


 衝撃波とともに、土埃が降り注ぐ。


――これは、真似してはいけないわね。


 ウルリカは見なかったことにした。


「よーし、好きな畝を選んでくれ。最初は殿下だ。お勧めは火薬だぞ」

「そんな危険な畑、選びませんわよ!」

「ほう、じゃあどれにする」

「わたくしは、去年豊作だった畝を選びますわ。それは大地の祝福があるということですもの」

「じゃあ決まりだ。カリン、お前はどうする」

「私は、マメとクローバーの畝を」

「じゃあ、私は火薬の畝を貰っちゃうぞ~」


 少年のような笑みを浮かべる教師。


「どうぞ、どうぞ」


 ウルリカとカリンの声が重なった。


 二人は、教師の指導を受けながら、農耕技術の基礎を学んだ。


 ウルリカとアンナと近衛兵は、泥だらけになりながらも野菜の世話をする。そうしているうちに、カリンと教師のウルリカを見る目も変わって行った。


「あいつら、相変わらず珍奇な服装だな」

「はい」

「だが、きっとこの国は変わるだろうな」

「そうですね」

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