面接


「王太女殿下、この度はお招きいただき大変光栄に存じます」


 王宮の応接室にモーナ・ハンデルがやってきた。栗毛を肩まで伸ばした、少し強気そうな顔つきの女である。


「それでは、ごゆっくりでありまする!」


 使用人のリサはビシッと敬礼した後、騒がしく去って行った。あの妙に正しい近衛兵式の敬礼を見るに、きっと、リサの教育を近衛兵がやっているのね、とウルリカは微笑む。


 通常、貴族出身の近衛兵が平民の使用人に構うことはない。しかし、リサは愛嬌がある少女なので、近衛兵とも仲良くやっているようだ。ウルリカが手配した教育も、きっと彼らがやってくれているのだろう。


 まあ、近衛兵としてならともかく、メイドの態度としてはアレなのだけど。


 お互いに自己紹介を交わし、モーナに着席を促す。


「ご足労に感謝いたしますわ。さあ、掛けてくださいませ」


 ウルリカとモーナがソファに腰掛けると、アンナが手際よく二人に紅茶を出した。


「中央銀行構想については、レッドフォード公爵から聞いてくださったかしら」

「はい」


 ウルリカは資料に目を落とす。彼女から提出された履歴書と密偵に調べさせた情報である。この二つに大きな相違はなかった。つまり彼女は自らの経歴を盛ることはしていないようだ。


「貴女は商工ギルド連合会で経理を勤めておられたのね。商人達の経営相談にも乗っておられたと聞きましたわ」

「はい、恐縮ながら」


 その声が震えている。モーナは紅茶に口を付けず、両手を膝の上で握りしめていた。


「そんなに緊張しなくてもいいのよ。貴女は貴族相手でも物怖じしないと聞いていたけれど」

「……昔はそうでした。しかし、子供が生まれてからは、この子が連座にならないかと心配で」

「子を産むと世界が変わると言いますものね。けれど、安心してくださいませ。連座について心配する平民は多いけれど、本人が逃亡した場合か、反逆罪の場合に限られますわ」

「私たちは反逆罪に問われるのが怖いのです。もし今ここで殿下に拳を振り上げれば、それだけで反逆罪に問われます」

「そうなの?」


 その場にいた近衛分隊長に尋ねる。


「反逆罪は、王または王族に害をなそうとすることについての罪であります。我々は、害意が認められれば、その場で処断し、場合によっては家族を連座で公開処刑できることになっているのであります」


 モーナはそれを聞いて顔を真っ青にした。


「怖がらせないで頂戴」

「はっ」


 ウルリカは、モーナに向き直る。


「貴族同士では利害関係上、その場で処刑することはないけれど、権力の後ろ盾のない平民には不利な法律ね」


 パン泥棒のハンスを思い出す。


「……はい。この度の件は、とても光栄で、ありがたいご提案とは存じます。しかし、中央銀行の業務では、王命に逆らわなければならないこともあり得ます。可能ならば辞退させていただければと」


 声を震わせるモーナ。


 王族からのオファーを辞退するということも考えようによっては「反逆」に問われかねない。


「意向は確かに伺いましたわ。けれど、今は一旦保留にしていただけないかしら。貴女の不安を解消できる方法を検討いたしますわ」


 こうして、その場は解散となった。

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