距離


 ウルリカは寝室で、寝衣への着替えをアンナに手伝わせていた。


 アンナがふと手を止めて、ウルリカに言う。


「殿下、レッドフォード様と距離を置いてください」

「あら、そんな関係ではないわよ」


 あっけらかんと言うウルリカに対し、アンナは頭を抱えた。


「……自覚してないパターンかぁ」

「自覚も何も、ただの仕事上のパートナーとして、親交を深めたいと思っただけですわ」

「はいはい、そうですね」

「信じてませんわね」


 むっとするウルリカに対し、アンナは口調を強める。


「殿下。貴女は恋愛感情が絡むとポンコツになられます。もし、ほんの少しでも恋愛感情が芽生えれば、殿下は判断を誤られます。『ああ! ルーカス! どうして貴方はルーカスなんですの~!?』となります」


 アンナはウルリカの声色を真似てそう言うと、ウルリカはムキになった。


「なりませんわ!」

「とにかく、殿下がそう思っておられても、周囲からそう見られれば、回るものも回らなくなります」


 ウルリカは今日のできごとを少し思い巡らす。確かに、ルーカスと親密な関係だと誤解されれば、ウルリカ自身もルーカスも苦しい立場に追い込まれたことだろう。


「……そうですわね」


 すると、アンナはウルリカの前に跪いた。


「殿下、意地悪で言っているわけではないのです。私は心から殿下の幸せを願っております。個人的には、あの汚部屋ナヨ男のどこが良いのか全然分かりませんけど、殿下が恋に生きると覚悟なさっているなら、当たって砕けて、命果てるまでお供いたします。しかし今の殿下は国民を救うことを目指されています。だからこそ、不意の感情に足元を掬われて欲しくはないのです」


 ウルリカもアンナの前に膝をつく。


「貴女の心配は分かったわ。けれど、貴女が言うとおり、わたくしが恋に落ちればこんなものでは済まないわ。だから、本当に何でもないの。一周目の人生は、わたくしも反省しているのよ。約束したでしょう。もう貴女に悲しい思いをさせないと。信じて頂戴」

「……はい」

 

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