ルーカスのお部屋訪問(二)


 ウルリカはアルビオンの美しい町並みを知っている。レイクロフト公爵家のルーツはアルビオンにあり、ウルリカ自身も何度かアルビオンに足を運んだことがあるからだ。その面影のある町並みが、今やこのような姿になっているとは。


 思わず目を背ける。


「ごめんなさい、わたくし、外を歩いて冷静でいられる気がしませんわ」

「……そうですよね」

「代わりにといっては何だけど、貴方の身の上話を聞かせて頂戴」

「ええ、どうぞそこへ掛けてください」


 先ほどまでゴミに埋もれていたであろう椅子。少し躊躇しつつも、王妃スマイルを浮かべて腰掛ける。一周目の世界で受けた王妃教育の中で、最も役に立つスキルはこの王妃スマイルである。


 ふと、棚に飾られた家族写真に目が留まる。


「あれはご家族の写真かしら」

「ええ、そうです」


 と、ルーカスは写真フレームを手に取る。


「これが私。そして、父と母と兄です」

「ご無事なの?」

「いいえ。まぁ、生きている可能性があるとすれば兄ですが」

「お兄様はどうされましたの?」

「最終戦争の少し前、火星移住プロジェクトで、火星に発ちました。でも戦争の混乱で連絡がつかなくなり、無事火星に着いたのか、火星で生きているのか、それすら分かりません」

「火星には人が住めますの?」

「そのままでは住めませんが、地球の環境を再現する巨大な建築物を作って住めるようにするプロジェクトでした」

「お兄様が生きておられると良いですわね」

「ええ。でも、もう二度と会えないことは確かです」

「お父様とお母様は、戦争の犠牲に」

「ええ。私がこの手で埋葬しました」

「……それは、さぞかし、お辛かったでしょう」


 ルーカスはすすり泣く。


「すみません」


 ウルリカは思わずルーカスを抱きしめた。


 チェンバーの扉で、アンナが騒ぎ出す。


「あー! いけません、殿下! っていうか、なんでルーカスだけ――」


「OKコンピュータ、アレを静かにできませんこと?」

『チェンバー内の音声をミュートにします』


 視界の隅でアンナが暴れているが、ウルリカはルーカスが泣き止むまで、こうしていた。


「もう大丈夫です。王太女殿下に失礼な態度を――」

「いいえ。民に寄り添うのも、わたくしの務めですわ。異世界人の貴方は、義務もないのに、雇用を生み、民に寄り添ってくださっています。けれど、貴方自身も報われなければなりませんわ。ぜひわたくしのもとで働いてくださいまし」

「ありがとうございます」


 ルーカスは、家族写真をそっと棚に戻す。


 ふと、ウルリカはその隣に飾られている書状に目が留まった。


「シーランド公国の叙爵状……? 公爵、ルーカス・レッドフォード。貴方、爵位をお持ちでしたの?」

「あ、いえ、これはお恥ずかしい。これは本物の爵位というよりもお金で買えるもので――」

「貴方の世界でどうだったかは興味ありませんわ。けれど、これは、きっと使えますわ」

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