均衡
正式に共同統治者に就任してから数日後、ウルリカは特権を付与された貴族達を一堂に集めた。
「お忙しいところ、お集まりいただき感謝いたしますわ。皆様ご存知の通り、先般の特権乱発により国全体が混乱に陥っております。そこで、この件については、王太女として、そして女王陛下の共同統治者として、わたくしが責任を持って解決したく、この場を設けさせていただきましたの」
ウルリカがそう言うなり、貴族達が身を構える。
「わ、私は返納しないからな」
「私もだ!」
ウルリカは片手を挙げて制する。
「ええ、そうですわね。わたくしとしても、一度与えた特権を取り上げるというのは筋が通らないと考えておりますわ」
「そうだ!そうだ!」
どこからともなく野次が飛ぶ。
「けれど、現実問題として、我が国の玄関口である港町、アウヴィネン侯爵領の国税を二年間も免税してしまえば、国の財政が立ちゆきません。一方で、セーデルフェルト伯爵領は農地が殆どですわよね。鉱山の権益を充分に活かせまして? 鉱石を農地に持ち込めば、土壌に悪影響が出るかも知れませんわ」
「……そ、それは」
「ならば、アウヴィネン侯爵領と、セーデルフェルト伯爵領で特権を交換すれば、どうなりますかしら。アウヴィネン侯爵領は税負担を差し引いても、鉱山から鉱石を直接仕入れて輸出するほうが手取りは大きいはずですわ。そして、セーデルフェルト伯爵領は近年の不作傾向を補填するためにも二年間の免税があれば数十年に渡って助かるのではなくて?」
「確かに……」
「もちろん、これは例えばの話ですわ。本日、皆様に一堂に会していただいたのは、特権の均衡を図るために、このように皆様で特権を取引していただくためですの。わたくしが立会人となり、この場に限り、特権の取引を認めますわ」
貴族達の顔が明るくなる。
ウルリカは時に調停し、時に助言をしながら、取引を見守った。ウルリカはどのような質問にも流ちょうに答え、妥当な解決策を提案した。最終的に、この場の全員が、少なくとも一度はウルリカに助言を求める形になった。
彼らはウルリカのことを、「所詮は十六歳の少女」「蛙の子は蛙」と思っていただけに、ウルリカの知識と立ち振る舞いは大きな驚きを彼らに与えた。
「異議はありませんこと? やっぱり特権を返納したいという方は返納してもいいのよ?」
ウルリカがおどけて見せると、会場がどっと沸く。全員が笑顔で首を横に振った。
「それでは、陛下の委任と、わたくしの権限により、すべての取引を承認し、閉会を宣言いたします」
貴族達は、大きな拍手でウルリカを称えた。
これがウルリカが共同統治者として王権を行使した最初の事例となり、それは広く知られることとなった。
人々は「ひょっとするとひょっとするかもしれない」とウルリカのことを見るようになった。
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