幕間

青の髪飾り


「来年の王室オークションの出品は何にしましょうか」


 アンナは宝物庫の物品を旧王家の資産をリストと照合しながらウルリカに尋ねた。


「そうね、あまり高価すぎるものを放出しても、基金を継続できなくなるわよね。できるだけ手ごろなものを、とは思っているのだけれど――」


 目の前には、繊細な彫刻を施された金の盃がある。ふんだんに埋め込まれた大小様々な宝石がギラギラと輝いている、実用性の欠片もない盃だ。ウルリカの趣味ではないので、売り払ってしまいたいのだけれど、しかし、これは高価すぎて逆に適正な値段が付かないリスクがある。


「他には、今どれぐらい照合が済んでいるのかしら?」

「まだ三割程度ですね。管理がずさんなので、手間取っています」

「追放の混乱に乗じて持ち出したものも多そうですわね」

「ええ、残念ながら。次はこの部屋です」

「!」


 無数にある装飾品類の中から、一つの髪飾りがウルリカの目に留まる――あの青の髪飾りである。その髪飾りは机の上に放置され、埃に埋もれつつあった。


 ウルリカは思わず手に取り、胸元に抱き寄せた。


『ウルリカ、君に似合うと思ってね』


 ふと、一周目の世界の記憶が蘇る。婚約者であったウルリク王太子殿下は、そう微笑んで、青の髪飾りをウルリカの髪に差した。あの甘い記憶が。


「殿下……」

「ウルリカ様、殿下は貴女です」

「分かっているわ。でも、もう二度と手に入らないと思っていたのに、奇遇だわ。殿下がわたくしを想ってくださっているのかしら」


 アンナはウルリカの手を掴む。


「いけません。これは国庫の資産です。私物化は許されません」

「わたくしが個人で買い取るわ。それなら良いでしょう?」

「いけません。渡してください」

「嫌よ! 二度と手放さないわ」


 ウルリカが声を荒げる。


 アンナは手を掴んだまま、大きな溜息をついた。


「自覚なさってください。殿下は恋愛が絡むとポンコツです」

「そんなことないわよ!」

「よーく考えてくださいね。二周目の世界では、前王太子と全く面識がありませんよね? それなのに、全く同じ物が出てきたんです。つまり、彼が真剣に選んで買ったのではなく、この部屋から適当に選んだだけということではないですか。しかも、こんな酷い管理状態のものを」


 ウルリカは言葉を遮った。


「それ以上言わないで!」


 そして、渋々と青の髪飾りをアンナに渡す。その手のひらは埃で真っ黒になっていた。

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