刑の執行
それから、しばらくして。
元穀物商の店舗には行列ができていた。掲げられた看板には「王立ウルリカ・レイクロフト生活支援基金 銅貨一枚パン」と書かれている。
行列に並ぶのは、子供から大人まで、ボロボロの身なりの人々ばかりだ。
人々を大声で呼び込むのは、受刑者ハンスである。そして彼の妻子が彼を手伝っていた。
そう、ウルリカが提案した刑罰は、強制労働である。
ウルリカは、自らのネックレスをオークションに掛け、王立ウルリカ・レイクロフト生活支援基金を設立した。基金で買い上げた黒パンを、住み込みでハンスに販売させる。それが強制労働の内容である。
アンナは公開処罰自体が野蛮だと苦言を呈したものの、これが貴族を納得させられるギリギリのラインであった。
強制労働とはいえ、ハンスには毎日銅貨で給与が支払われる。そして、模範的に刑に服した結果、彼には刑期短縮という名の有給休暇も与えられた。
彼は刑期を終えた後も、職員としてパンを売り続けた。それを見た元憲兵のサム爺も警備に名乗り出て、彼が貧民街の人々に仕事を分け与えるようになった。今や貧民街は定期的に清掃され、彼らにもパンが行き渡っている。
さらに、商人達も銅貨一枚で中古や売れ残りの衣服を売るようになった。市場が見窄らしくなるのを防ぎたいという後ろ向きな理由ではあるが、結果として貧民街の生活水準は向上しつつある。
こうして、王都で発生する盗難事件は半減し、王都全体の治安が向上した。これはまさに、近衛隊長の求める、王家の威光を示し、再犯防止効果のある、公開処罰となった。
ついでに、国家憲兵を含む公務員にも有給休暇制度が導入された。そのおかげが、巡回する憲兵達の表情は明るい。
「殿下のおかげで、彼らに笑顔が戻りました」
「そうね」
ウルリカは思った。
彼らは今を必死に生きている。ここが虚ろな世界なのだとしても、彼らの生きる意思は本物だ。であるならば、自らの責務は、この世界で彼らのために持てる力を尽くすことである。
「――けれど、これで救われるのは働ける者達だけよ。もっと根本的な解決が必要だわ。アンナ、行くわよ」
「はい、殿下」
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次章からは、ウルリカが国政問題に挑んでいきます。突然手に入れた権力に酔いしれてしまう両親。ウルリカの下した決断とは――。
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