追放

 執事長は神妙な表情で、ウルリカに説明する。


「今朝、シェルンヘルム王家は『離島を敵国クストランド帝国に売り飛ばした国賊』として告発され、弾劾裁判が行われたのでございます」

「……!? それで王太子殿下は」

「連座で追放でございます」


 ウルリカは複雑だった。理不尽に巻き込まれる苦痛を知る者として、彼に手を差し伸べられないのが心苦しかった。しかし、接触を回避したのは正しい判断だったと安堵する冷徹な気持ち、そして存分に苦しめばいいという黒い感情がドロリと胸の中に流れ込む。


――愛の裏返しが憎しみ、とはこういうことですのね


 ウルリカは口元を歪める。それは知りたくなかった感情だった。


 だが、もう一つ大きな疑問がある。ウルリカは、床に転がっている女王陛下(仮)を抱き起こしながら尋ねた。


「それで、何故お母様が女王に」

「かつて奥様は旦那様と婚姻される際、王令により王族籍を除籍されました。この度の弾劾により先王の王令をすべて無効化する判決が下され、奥様の王位継承順位が最上位となったのでございます」

「なんてこと!」

「シェルンヘルム王家はお取り潰しとなったため、レイクロフト家が新王家となります」

「なんてこと……」

「そして、お嬢様は王太女となられます」

「何ですって!?」


 ウルリカの手から、再び女王陛下が転がり落ちる。


「先々王の絶対的長子相続制導入を無効化した、先王の王令が無効化されたのでございます」


――無効化を無効化……。


 こめかみを押さえる。つまり、男女問わず最年長の子が相続する「絶対的長子相続制」が偶発的に復活したということだ。


「……なんてこと」


 王太女――つまり、いずれ女王になることが確定したということだ。


 何とも皮肉な話である。愛は手に入らず、権力などという最も要らないものを手に入れてしまうだなんて。


「コホン、失礼いたします。イイイイィーヤッホー! レイクロフト家の復活でございます!」


 執事長は杖を投げ捨て、激しく踊り始める。使用人達がヘッドバンキングしながら、それに続く。お祭り騒ぎである。


 新女王陛下を乗せた担架を神輿のように担ぎながら、使用人達が屋敷内を練り歩く。


 ウルリカは複雑な気持ちで微笑みを浮かべた。一周目の世界で身につけた、王妃スマイル――本心を見透かされてはいけないときに被る鉄の仮面である。他人の不幸を喜ぶべきでないという気持ちと、一緒に踊りたい気持ち。そして、自己嫌悪。それでも、彼らの忠誠心に水を差すような無粋なことだけはしたくなかった。


 ただ、静かにアンナを呼び止める。


「アンナ、『開発者コンソール』とか『立太子』って一体何なのかしら?」


 ウルリカに問われたアンナは、驚愕して目を見開いた。

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