早退


〈ウルリカ視点〉


 ウルリカは結局、入学式を欠席した。二周目のウルリカにとって、やたら長い校長のスピーチも、在校生代表の寒いノリの挨拶も、すべて知っていたからである。


 箱入り娘の令嬢が孤独に耐えきれなかったという体で、学園のレンタル馬車で早退することにした。教師もウルリカの泣き腫らした顔を一目見ただけで「ああ、またか」というような冷めた反応だった。


 ウルリカは馬車に揺られながら、静かに車窓を見つめていた。いつしか霧は晴れ、鮮やかな街並みが露わになる。それはまるで彼女の心を映しているかのようだった。七年ぶりに晴れた霧である。


 今日、ウルリカは、自らの手で可能性を断ち切った。ああすればよかったとか、こうすればよかったとか、もう考えなくて良い。楽しかった時間は、確かにウルリカの心に刻まれている。それ以上はもう何も望むまい。


 家に戻ったとき、ふとアンナの声が聞こえた。


「開発者コンソール、オープン」


 アンナを探すと、不躾にも客人用のソファーに寝転がっている彼女の姿が目に飛び込んだ。注意しようと思いつつも、一周目での忠義に免じて今回は見て見ぬ振りをすることにした。


 他の使用人に学園を早退したと告げ、ウルリカは私室に戻る。そして、そのままベッドに背中から倒れ込んだ。行儀悪くも大の字で。


 今日ばかりは、公爵令嬢も閉店休業である。ただのウルリカ・レイクロフト。なんでもない一般人。最愛の人とやり直すチャンスを手放した、哀れで愚かなただの人。


 心を無にしていると、ふと脳裏を過るのはアンナの姿であった。


「――それにしても、アンナは何をしていたのかしら? 開発者コンソール? オープン?」


 そう呟いた瞬間、ウルリカの目の前に、板状の浮遊体が、キラリと光を放ちながらポップアップした。

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