タイムリープの真相
〈アンナ視点〉
アンナはウルリカを見送った後、いつものようにレイクロフト公爵家の広い屋敷の中を掃除しながら、人目のないところでピタリと立ち止まった。
左右を見渡して誰もいないことを確認し、アンナは言う。
「開発者コンソール、オープン」
すると、アンナの前にポップアップウィンドウが展開した。そこにはシステムの主要なメトリック情報がグラフで表示され、ログが絶え間なく流れている。
今は二十二世紀。ここは
杏菜は特に貴族ファンタジーが好きというわけでも、メイドに拘りがあるというわけでもない。几帳面とは言われるが、特に好んで人に尽くすタイプというわけでもなかった。ただ、著作権の都合で今世紀の著作物は使えないので、前世紀のアセットデータを活用しただけなのである。時代設定にそぐわず上下水道も水洗トイレも完備しているのは、純粋に自分を含めたプレイヤーのUXのためである。正直な所、細部に拘りはない。
しかし、開発者としてこの世界に入り浸るうちに、どうやってもシナリオ通りに動いてくれないウルリカというキャラクターに、いつしか惹かれるようになっていた。だから、侍女アンナ・フオミネンとして本気でウルリカ・レイクロフトの人生に関わることにしたのだ。今や、アンナにとってウルリカは忠誠を誓う本物の主人であった。だからこそ、ウルリカのために侍女としての立ち振る舞いから紅茶の淹れ方に至るまで完璧にマスターしたのである。
「OKコンピューター、ウルリカ様の記憶データの整合性チェックは完了した?」
『完了しました。現在は百パーセントの整合性を保っています。過去八時間にエラー、警告は記録されていません』
「やった!」
アンナは嬉しさのあまり客人用のソファーに倒れ込んだ。使用人の立場でこんなことをしてはいけないと分かっていながらも、こうすることを禁じ得なかった。なぜなら、二周目のウルリカに一周前のウルリカの記憶をマージするという技術的な難題に打ち勝ったからだ。
記憶データのコンフリクトの解消には、実に二年の年月を要した。入学式の日に間に合って良かったと、胸をなで下ろす。今ごろウルリカは再び殿下と出会っている頃だろうか。今度こそ、殿下の心を掴んでほしいものだ。
「ウルリカ様、頑張れ!」
それは杏菜そしてアンナとしての本心だった。
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