第49話 勧誘の乱ですわ!
* * * *
「なぁマッチポップ。お前ぇ本当にマジで言ってんのか?」
「超マジカルビのジュージューパクパク美味しいな」
「どうりで昨日からおかしい事ばかり続くと思っていましたわ。まさか私達をこの街に押し留めようとするなんて……」
マッチポップが語ったのはつい先日見た、バンガスを囲わんとする者達の存在だった。
言われてみればあまりにも不自然だ。こうまで自分の身に降り掛かる騒動はそれこそ何者かの意図によると考えた方が納得がいく。
アズライドとマッチポップは一旦お茶を飲み、バンガスは芋焼酎を煽る。
「あれは王国兵士ギルド『煤ける錫』の隠密部隊ですねぇ。バンガスさんがこの街に居る事自体、かなりの大事というわけです」
「お師匠様以外のSランクの方が所属するギルドですわよね。私もそれくらいは知っていますわ」
「ちょーゆーめーですからねー。その認知度もバンガスさんと変わりません」
『煤ける錫』の武功はバンガスであっても知っている。Sランクの歴で見ても彼方のオーボールの方が上なのだ。
国を守るという大義のみで上り詰めた、イラ=エ王国を代表する不屈の要。まさか奴等にも狙われてるとはと、バンガスは内心驚きつつ強欲だなとも思った。
「Sランクのオーボールか……」
「戦ってみたくなっちゃったりしちゃったりチャリンチャリンって鳴らしてみちゃったり?」
「前にも別んとこでSランクとバトったんだよな。ありゃ面倒臭かった……」
このイラ=エ王国に足を踏み入れる前、バンガスは此処より南の国で活動していた。やっている事はさほど今と変わらず、毎日の最中に勧誘員が送り込まれるのも同様。
違ったのはそんな日々の合間に1人だけ苦戦を強いられた人物が居た事だ。記載ギルド『
最終的に相手の体力切れで勝利したものの実力はほぼほぼ五分。やりたくねーな……と多大な面倒臭さを齎すのがSランク同士の戦闘となる。
マッチポップがまん丸な目を向ける。
「私より面倒でした?」
「自覚あんのかよ……。てかジャンルがちげーよ。戦うのが大変だったって事だ」
「さっさとお国を出た方が良いですわね」
「そうだな。流石の俺でも確実に勝てるかは怪しいもんだぜ」
「嘘言わないで下さいよっ♪ バンガスさんが負けるなんてあり得ない絶対有り得ない♪」
「規格の中に収まらねーからSランクなんだよ。遠征に出てんだろ? なら戻って来る前にとっとと退散だ」
幸いなのはその立場故に特定の地域や国に縛られる事だ。Sランクとは積み上げた物が足枷となり時に身動きに難が生じる。
聖アイテムで飛んで来られたらどうにもならないが、そうなったらそうなったで覚悟は決めるしかない。
ただ『煤ける錫』からの急襲は今までに無い。バンガスが覚えている限りでは。
瞬間移動系の聖アイテムを持ち得ないか、使い勝手が中々に悪いかと、持ち得る物に関して二通りの考察が出来る。
周りでコソコソやられんのは癪だが、それは手立ての少なさを吐露してるようなもんだわな。
バンガスはそう考える。イラ=エ王国兵士団の弱点見たりと。
ならどう出し抜いてこの国からおさらばするかだな……。更に思案していると、唐突にバンガス達に向かい歩みを寄せて来る者が1人。
緊張しているのか妙に顔を強張らせ、足取りも何だか硬い。こういった振る舞いの人物が何を目的にしているのかバンガスは想像が付く。
「し、失礼致しますッ!」
「……ギルドにゃ入らねーぞ」
そうギルド勧誘員である。もうバレちまったかと情報の回るスピードには辟易する。
「そこをなんとかお願いしますッ!」
「頼まれたって無理だ。てか俺のこと何処で聞いたんだよ。何で俺が俺だと分かったマスク付けてんのに」
「街のあちこちで噂が流れていたのでッ! かの有名なSランク冒険者バンガス様がマスクをして徘徊していると! 隣に桃色のドレスを着た女性を供に付けているのが目印ともッ!」
馬鹿正直にもこの男は話した。
監視していた隠密が流したのか? バンガスは疑問を持ちつつもそう考える。
それなら既に様々なギルド、人にこのマスクが知れ渡り始めていると見て良い。その内に津波の如く溢れ返るだろう。
取り敢えずこいつだけでもぶん殴って早々に逃げるか。そう考えているとまた1人、そしてもう1人。計2人の人物も明らかにバンガスを目掛け現れる。
「どうも失礼します。私『眠り団子』のシュルツと……」
「俺は『獅子八重歯』のメビコット! 一緒に天下取らねーか英雄!」
「ちょっとなんですか! 僕が先話していたんですけどッ!」
「そこは平等だろうが! なんでもそうさ!」
「上に同じく」
バンガスが相手をするまでもなく、この3人はいざこざを起こし始めた。
「不味い事になりましたわ……」
アズライドはポツリと呟く。
「うーむ。彼方さん手を変えて来ましたかね? でもでもこのやり方はリスクあるかもかも鍋。わがんねポップン」
「俺が居るってのを無理くり広めて足止めって感じかこれは。ビッちゃんとこも酷くなってそうだな。どうやって捌いていくか……」
情報の回り方から考えてみて、あの教会にも詰め掛けてんだろうな。こっちはまだ人が少ないから楽だわ。
サンキューだぜビッちゃん。
バンガスは純粋な感謝の念を送る。
「一先ず逃げませんか? スタコラサッサーしないとオーディエンスで埋め尽くされますよ」
「そうは言ったって何処にも逃げらんねーだろ。その場所なんかねぇからよ。戦いだ戦い」
バンガスは立ち上がり、そして例の如く棍棒を取り出した。アズライドとマッチポップも立ち上がる。
「私の
企んでいそうな笑顔にてマッチポップはそう言った。バンガスの答えは決まっている。
「い、や、だ」
「今回は真面目なマッチ子ちゃんですよ。この前みたいな大バトルをこの街でもやりますか? 困っちゃう人いっぱい出るだろーなー。まさかSランクのバンガスさんが無関係の人様に迷惑をかけるなんて、そんな考え方はしませんよね? ね? ねね?」
「それなら駆け抜けて、壁ぶち破ってでもこの街から退散するまでよ」
「上手く行きますかね〜。隠密さんも止めに入るだろうし、続々と現れる刺客達を振り解いている内に……ってなりますよぉ? 外に向かえば向かうほど過激な事をするかと」
「…………」
恥部を見たりと得意げなマッチポップの姿にバンガスはムカついた。しかしぐうの音も出ないその発言には黙るしかない。
騒動を起こせば丸っ切り無関係な者にも被害が出るだろう。もたついてもそうなる。良しと考えられるほど割り切りは出来ない。
「お師匠様行きましょうですわ。今は姿を隠す事が先決だと思いますわ」
「ッチ。背に腹は変えられねーか……」
マッチポップに上手く誘導された気もするが。仕方ねぇ『運び屋』のギルドに行ってやるよ。足を運ぶだけだがな。
渋々とそう思い、未だ言い合う勧誘員を尻目に3人は走り出すのだった。
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