第31話 マイナス効果、合体だ!

* * * *




 大地が、鳴動する——。


 木々が連ねる母なる大地を突き破り、現れたる2匹の土竜もぐら。そのメカメカしく大地を疾走するキャタピラは高速にも直走る。


 方や集いし鹿の群れ。その輪を駆け抜ける2匹の黒い狼。獲物は無く、しかし鋼の肉体は意志を持って瞬足を奮う。


 その二つの力は一点に集う。


 鋼の狼はそれぞれに変形し両腕を成形。キャタピラを持つ土竜は逆立ちし大地を支える二本の足に。


 そして天から影を差す白絹の如き大鷲が、その翼を畳み背部へとコネクトする——!。


 自然を揺蕩いし放浪者が今、新たなる真の姿をそこに得た。


「大自然は命の宝庫。しがらみ払って自由を掴む。勇者原人バンガス! ギルドの勧誘あの世行きだぁ!」


 六つの命が結集し、そこに立つのは守護者たる仁王。


 黒々とした全身をフリースタイル合金で身を包み、凡ゆる攻撃を巨城の如く弾き返す事だろう。


 その一撃は山をも砕き、その一蹴りは海をも裂く。

  

 瞳と腹部に内蔵されるマイナスイオン精製システムは収束し、その必殺エネルギーで遍く敵性を滅ぼし尽くす。


 背に抱えし翼は時空を越え何処までも。自然の赴くままに駆け巡り、声無き声の大自然を守護する為に。


 勇者原人バンガス。その輝きは明日への命を繋ぐ。


 合体シークエンスを目の当たりにしたアズライド、そしてマッチポップ。特にアズライドは腰が抜けるように地面へと落ちた。


「バ、バンガ……お師匠様……」

「おうえええええぇぇぇ!!? どうしてこうなったのぉ!? ホワイナチュラルピーポー!?」


 木々をも優に越える程の巨大。太陽をもその身の力のせんとする姿にマッチポップは絶叫した。


 どうしてこうなった!? どうしてこうなった!? どうしてこうなった!?。


 マッチポップの脳内は珍しくも混乱の一途を辿り、そのバンガスの体に起きた異変について理解が及ばない。


 合体までのプロセスをもう一度整理しよう。


 両腕がカラーボールと化したバンガス。それをどうにかする為にまた聖アイテムを使用した。


 しかしそこにまたマイナス効果が生まれ、更に使用、マイナス効果と連鎖していく内に気付けばバンガスは勇者原人となり超鋼を纏ったのだ。

 

 何処をどう間違えばこのような顛末を迎えるのか。それは当の本人達が声高に叫びたい状況だろう。


 バンガスの金属質な顔が地面に向かう。最早人の身に在らず。


「やぁ淑女達! 相も変わらず喧しいな! しばき倒して簀巻きにするぞ!」


 その声は二重にエコーが掛かったような聞き辛さ。しかしその命運を託せるほど逞しさのある強さで満ちていた。


「すっごい爽やかなのに言葉がキツい! やっぱりバンガスさんなんですよね!? これ!!」

「ギャオオオオオオオオオオン!! 私、失敗してしまいましたわあああぁぁぁ!! うえええぇぇぇぇん!!」

「怒るか泣くかどっちかにしないと! ていうかバンガスさん元に戻さないと!!」

「もう良さげなアイテム無いですわあああぁぁ! お師匠様ごべんなざいいいぃぃ!」


 アズライドとマッチポップの周りには今し方使われたであろう様々なアイテムで溢れていた。


 竹箒、タオル、ボール、本、コップ、靴、斧、弓そして矢にetc...。幾つかはバンガスに吸収されアイテムとしてさえ存在していない。


 勇者原人となったバンガスは飄々に笑う。


「謝る事はない! 私は遂に進化しただけだ! この大自然を焼き尽くすサイカーンとの戦い! 新たな使命が幕を上げる!」

「そんな使命も幕も無い! サイカーンって何ですかこっちは阿鼻キョウカーン! まさか聖アイテムの掛け合わせでこんな事になるなんて……てかここまでならないだろ!!」


 マッチポップの敬語的なキャラ付けもここに至っては拭い去られる。


 な、なんとかしなければ……。どうしたらいいの!? マッチポップちゃん分かんないよ!。


 隣のアズライドは力無く薄い笑みを浮かべ、何処を向いているのか遠い目をする。


「うふふ……私も責任をとってサイカーンと戦いますわ……」

「アズちゃんもそっちに行かないで!? 私1人じゃどうにも出来ないの! マッチポップちゃんワールドの上を行くなー!」


 私だって完全体に……完全体になりさえすれば〜!。


 このトンチキな展開に対抗心を燃やし始めたマッチポップであるも、流石に自分まで巻き込まれてしまえば収拾が着かないと分かっている。だからこそ、尚の事、この現状が非常に妬ましい。


「待っていろサイカーン! 貴様ら全員あの世行きだぁ! 成敗!」


 ドッキングした背中の大鷲の羽が突き出る。そして吹き荒れる旋風のままに勇者原人バンガスは空へと旅立つ。


「あー待った待った! 勝手に行くな戻ってこーい!!」


 勝手に飛んで行かれたら困ります! これ以上ややこしくしないで!。


 その心が通じたのか渋々勇者原人バンガスは回れ右に旋回し戻って来る。


「しつこい淑女だな君も。私のグレートシックスセンスが警報を鳴らしているのだ。この大自然の中で生きる命が助けを求めている!」


 こ、こうなれば仕方ありません。これがブレイブアートの効果であるならば、あの人に助けを乞えば何とかなるかもしれない。


 マッチポップはこの現状を打破出来る知り合いに一つツテがあった。こんな有様で訪ねるのは気が引けたが、背に腹はかえられない。


 マッチポップはあまりにも引き攣った笑みを浮かべる。


「勇者原人バンガスさん! サ、サイカーンのアジトを知っています! 案内しますので乗せてください!」

「なんと! たまには役に立つ淑女ではないか! あっはっはっは!」


 淑女って言うの止めろ! 似合ってなさ過ぎてサブイボが立つ!。


「神木スーパーナチュラリオン……私は意思疎通の図れる乙女……超越合神ガイアバンガス……」

「戻れアズちゃん! 街に行きますよ! 私の知り合いならどうにか出来るかもしれません!!」


 マッチポップは未だ力無く呆けたアズライドの腕に肩を回し、勇者原人バンガスの足下から開く搭乗口に乗り込むのである。


 中は機器類に塗れておりポツンと椅子がある。マッチポップがそこにアズライドを座らせると、周りの電灯が一気に照らし出した。


 コックピット内部が大きく振動し体を取られそうになったマッチポップは椅子を支えとした。


「な、何が起きてるのー!」

「……ッハ! ここは何処ですの!?」

「アズちゃんやっと正気に戻ってくれたのね……」


 振動が収まると目前のシャッターが開きモニターが映る。空の景色が動いているようだった。


「淑女達よ! ナビゲート宜しく頼む!」


 室内に響き渡る勇者原人バンガスの声色。2人はただ唖然とした表情を作る。

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