第24話 小競り合い
「あの、お師匠様」
「あんだよ」
「マッチポップちゃんの事どう思いますわ?」
「唐突だな。普通に俺の敵だけど」
「か、辛口ですわね……」
バンガスにとって未だその認識は変わらない。いや、変えようがないといった具合か。
誘うと言葉で言ったとて、荒事にて制しようとする者、枷を嵌め操ろうとする者、果ては定期的にやって来て根負けまで粘ろうとする者。どの者もバンガスの意思は全て無視している。
であるならば、ある種の象徴程度にしか思っていないのであれば、それは道具として求められているに等しい。
敵と言わずとしてなんと言うのか。バンガスには他に当てはまる言葉は思い付かない。
「例え腐れ縁だったとしても俺をギルドに誘うやつぁ皆んな敵だな。正直グダグダと長引かせ過ぎた。ノらねーけど一度しばいて二度と俺の所にゃ来ねーようするよ……と思ってもいるんだが、どうするか悩んでんだよな……」
敵だったとして情が湧かないなんて事はあり得ない。飯を食わせたり
故にマッチポップは暴力を振るわれないと思っている筈。この認識を改めさせなければ、この毎日連続して現れるようになったマッチポップは止められないだろう。
アズライドは口を噛むように思い顔付きをする。
「マッチポップちゃんは……お友達の事情の為に自分の事を後回しに出来る優しい子なのですわ。ちょっぴり変な所があるのは私も認めますが、そんなに突き放さないで上げて欲しいですわ」
「……うざってぇだけで嫌いじゃねーよ。ギルドに勧誘すんのは控えろって言っとけ」
個人的に会いに来て茶々入れられるなら咎めはしない。ギルドという看板を背負って来る以上はバンガスもそういう目で見るしかないのだ。
難儀なもんだな本当。人間関係ってやつぁよ。
バンガスはそう思う。
「私は、マッチポップちゃんがいたからお師匠様と出会えました。だからマッチポップちゃんとお師匠様が仲良く出来ますように私も努力致します」
「……頑張ってみな」
意志の強ぇ奴は好きだぜ。続く言葉を隠したバンガスは、その手に完成した棍棒を一つ振るった。ノミは仕舞う。
「何を頑張るのですか?」
「うぉわッ! 出やがったかこの!」
そして今し方話題に上っていたマッチポップが降臨。背後から静かに話しかけられたバンガスは飛び上がった。
アズライドは苦笑いを浮かべる。
「マッチポップちゃん。なんともタイミングが……」
「タイミングが私に合わせろ。スピードが私に着いて来い。神出鬼没! 貴方の背後にドロンドロン♪ 超越無双のマッチポップちゃんでーすぅ! 会いたかった?」
一昨日は狭い橋を渡る途中、昨日は飯の最中に驚かされ、今日はこの作業中。バンガスの脳内に目まぐるしく駆け巡るマッチポップの言動が思い出された。
毎度毎度飽きもせずよく人を驚かせる女だ。バンガスはため息に疲れを乗せて吐き出す。
「お前、毎食リンゴでも大丈夫なタチか?」
「栄養偏りますので私は色々摂取するタチです。強いて言えばパンケーキなら行けるかもしれません!」
「…………俺も同じ物食い続けんのは無理だよ」
しつこい味付けがいつまでも舌に張り付いている。そんな感覚である。
相も変わらずグリーングリーンの緑で揃えた全身。うっすら口角が上がって目線がアズライドの方へ。
「さて、アズちゃんは相変わらずお元気チョモランマですか?」
「うん。私は元気そのもの……チョモランマ? ま、前よりも力がついて来た感じはしますわ」
アズライドはその細い腕に力を入れ見せる。マッチポップは悲しげに瞳を落とした。
「アズちゃん……お願いですからバンガスさん2号にはならないで下さいね? 後生ですから……これは冗談も言えません」
「そんな無茶させねーし俺にゃなれねーよ!」
「分からないじゃないですか! この世の可能性は無限大! ごきげんなバタフライなんですよ私達は! 暗黒進化だってするでしょう!?」
いつにも増して何言ってんのか分からねぇ。だが、貶されてんのだけは理解出来る……!
バンガスは不満を隠さずに口を開く。
「俺が失敗してるとでも言いてぇのかこの野郎」
「野郎じゃないですぅぅぅ! 見る者触れる者溶かす、完璧極上スーパーデラックス顔面パーツ配置レベルマックス美少女化粧要らずですぅぅ!」
「それもうバケモンだろうがッ!! なぁ、お前ぇよ、アズライド預かってからチョッピリ喧嘩越しじゃねーか? こいつが決めた事に腹立ててんじゃねーよ」
「納得しましたけど納得していません。相反する二つの感情を制御出来なくなってます」
2人の言い合いは続く。それを側から見ていてハラハラしている様子だったアズライドは、次第に我慢が出来なくなったのか顔を真っ赤に染め上げ立ち上がる。
「ギャオオオオオオオオオオン! 2人とも喧嘩はやめて下さいまし! お友達同士で言い合わないでほしいのですわ!! もっと仲良くなれる筈なのですわ!」
アズライドの猛りをものともせず、バンガスとマッチポップの両名の間には目に見えない火花が飛ぶ。
「アズちゃんを……返せ。あの大空に! 聖剣を押し込めぃ! キュインキュインキュインガガガガ! ボーナス確定!」
「アズライド……やっぱりお前にゃわりーがコイツとは仲良く出来ねぇ。毎日毎日押しかけやがってもう限界だ……」
出来上がった棍棒のテストだ。合わせてこいつとの妙な関係もここで
バンガスは覚悟を決めた。戦いたくはないと思っていた相手に鈍器を振りかざす事を。
ギルド時代の仲間には既にやっている。二度目だ。だからこそ最初の時ほど腕に重さは感じない。
「ウンギャオオオオオオオオオオン! そんなに暴力がお好きなら私もバトルですわ戦いですわ! 捻り潰してご覧に入れますわあああ! ふぅぅ! ふぅぅ! 聖大楯マリオン!」
アズライドはそう言って聖大楯マリオン。その全身を覆ってしまえるほどの盾を持ち出した。
まるで天使の羽が如く左右には四対の装飾がある。盾の上部には亀裂が稲妻に奔る三角状のエレメントが嵌め込まれている。黄色、そして白光の混じった色味をしていた。
ブレイブアートの『一理明察』。バンガスはあの時話を聞いていたので効果も理解している。直接戦闘するには部の悪さがあるが、わざわざ持ち出すという事は武器としての優秀さの現れ。
それでも俺の棍棒にゃ敵わねぇ。バンガスはそう思ったが、一緒に行動する者の武装まで破壊するのは気が咎める。
「アズライド。お前ぇとはまだ関係が浅い。だがそれなりに良い奴なのは分かってるつもりだ。……退きな」
「絶対に退きませんわ!」
アズライドの意固地は変わらない。寧ろこういう場面だからこそ尚強くその性質が発揮されるのだろう。
マッチポップは何処か物鬱げな表情をすると、引き下がりはしないのだとそんな顔に変わる。
「絶対に戦うつもりはありませんでした……しかし! マイフレンドのバッドコースをイレイズしなければなりません!」
「絶対絶対ぜーったいに! 私は退きません! ギャオオオン!」
一触即発な2人と止めたい1人。バンガスは棍棒を構えると、アズライドが盾を勢いよく持ち上げたその瞬間の必死な形相を見る。
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