第13話 ダンジョン?
* * * *
場所は変わって羽虫が飛び交う大自然の中、生い茂るそれに囲まれた1人の男がいる。
自由を求める者バンガスが足を広げて屈み、その下半身は外の空気をもろに浴びている。相変わらず薄汚れた格好が文字越しにも鼻に障る。
動線が悪ぃな……いや、行けるか。そう考える最中に近くの林が音を立て揺れ、何かの気配に緊張し面持ちで瞳を移す。
現れたるはスーツを着込んだ女だった。
「お忙しい所誠に失礼致します。私——」
「いや、本当にお忙しい時に来る事あるかよ。見ろよこれ分かんだろ。はみ出てっから今」
「…………」
スーツの女は非常に冷たい目をして無言で下がって行った。
多くは語らずともその現状皆々察して頂ける事だろう。人と会うとした時のタイミングで、凡ゆる要素の中でも最悪の最悪だ。
「何で俺どん引かれてんだ? 女って、そういう所あるよな……」
被害者はこっちじゃねーかよ。諸々を済ませ爽快気分に立ち去るが、この事が陰りとなって頭の片隅にへばりつく。
格好から言ってギルドの誘いだな……ここ最近頻度がやたらと増えたな。ギルド間競争がまた一段と激しくなったのか?。
幾つか考えながらその足はひたすらに草を踏み鳴らす。
あのウザってぇマッチポップの絡みも鬱陶しさが増してやがる。この一連は俺に対する試練かなんかか?。上等だこの野郎負ける気はねぇ。
バンガスは意思を固く持った。もう少しバレにくい動きを心掛けるという考えもあるが、それはバンガスにとって他人の影響で自由を阻害されているに等しい。
それならば向かう所討ち取り綺麗さっぱり滅ぼす方がマシだ。本当にやったら指名手配されるだろうし、今以上に追う動きも激しくなりそうなので、そこは若干冗談めいていたが。
折衷案としてさっさとこの国を出てしまうという考えもある。長居し過ぎた事も原因の一端を担っていると思わざるを得ない。
歩いている方角を真っ直ぐ進んで行けば別の国内に入れるので、それくらいならば構わないかと向かう火の粉を払う程度な感覚だった。
「——ん? でけぇな、おい」
夢中で歩けば草木は途切れ、バンガスの目の前には見渡す限りの湖が広がっていた。
知らず知らずに人の気のある所に出てしまったのか。否。端から端を丹念に見渡せば此処に入れるような道はなく、この湖だけがポツンと森の中に存在している形だった。
繋がる川すらも見当たらないので、バンガスは無性に独立したこの場所が気になり、湖沿いをぐるりと歩き始める。
水……水か。バンガスはマッチポップから直接放たれた臭いついての言及を連想してしまう。
こういう不自由を与えてくる奴ぁ皆自由を蝕む大敵だ。他人の目という楔を埋め込む。最悪もいい所だな。
マッチポップの作り出した不自由に敵対心を燃やしていると、バンガスは不意に足を止めた。また森の中に視線を向けているのだが、開けた奥に何やら気になる物がある。
地盤が隆起して少しだけ盛り上がった段差。その壁面に大きく穴が空いている事に気が付いた。もしやあれは——と、バンガスの足はそちらへ向かう。
ダンジョン『ミケ』。
「ミケ? 何だそのダンジョン名。……やっぱり人か精霊の手が入ってんだな此処」
大自然の宝庫に突き刺さる無遠慮な他者の手。あの湖の場にて確かにあった違和感が現実の物となる。
ダンジョンの生成に関わる要素として主に人か精霊の二つから大別される事になる。
人の作るダンジョンの特徴としてはとにかく広く巨大で、来る者の思考を読んだ罠が張り巡らされ、そのダンジョン自体の宝もさほどレアという訳でない。そんな傾向がある。
どちらかと言うと遺跡としての価値の方が高くつく。大きさ故に魔物も多数生息しているのが問題だが、力試しをしたい者にとってはこれほど良い環境もないだろう。
精霊が作るダンジョンとは短く狭い傾向にある。自身の作り上げたブレイブアートの宿るアイテムを宝としてゴールに安置している為、寧ろ見つけて使って欲しいとその欲求が反映された結果だ。歴史のない新規ダンジョンはその殆どを精霊由来とする。
問題があるのならば、国ごとに存在する精霊の棲家周囲から離れれば離れるほど、その宝とするアイテムのブレイブアートに癖が生まれる事か。失敗作も放ってたりする為必ずしも当たりという訳でない。
問題のある精霊ほど馴染めず里から出ていき遠くに出向くので、そんな個性の上振れ達が作るアイテムも一癖二癖何癖もあるのだ。
色々語ったがダンジョンに関しては傾向な為当て嵌まらない事もある。バンガスの最後に踏破した『満ち足りない仙郷』はとても広いのだが制作は確実に精霊の手によるものだった。
今バンガスの前に現れたるこのダンジョン『ミケ』。何方の制作かは分からないがそれ自体は重要な意味を持たないと冒険者として得た経験で知っている。大事なのは起きるであろう事態に冷静に対処する事だ。
「多分、俺が初突入の冒険者って事になるよな非正規だけど。……どうすっかな」
因みにだが正規の冒険者というのはギルドへ登録した者達である。そこの登録が現状無いバンガスは非正規となる。
それでも冒険者の肩書きを名乗っている以上ダンジョンに赴くのは当然。バンガスの中にもやる気は勿論存在する。
しかし金に困っている訳でもないので、余裕があるのならそれ以上は過ぎたる物じゃないのか。という疑問がある。
非正規の冒険者として真の自由への道を探る。欲しがる事へ執着してしまうのはその道から外れてしまう。持つ物多ければ縛られ自由を失う。
その考えがバンガスを思い悩ませるのだが……『ミケ』というダンジョン名は些か気になって仕方ない。
ミケ、ミケ、ミケ。この中にゃ一体何が待ち受けてんだ?。
知りたいという欲求はバンガスに「見てみるだけなら……」と斜め下に続く洞窟内部へ足を進ませた。宝があっても取らなければそれで片が付く話でもある。
入り口から奥へ行くと明るさが失われて行く。バンガスはレザーコートから赤い球体を取り出す。
外気に触れた途端そのガラスにも似た球体の内部で小さな火が灯り周囲を照らし出した。
武装に類さない聖アイテム、聖松明『アカピカ』と名付けられた物だ。燃料補給も要らずに辺りを照らしてくれる。1日に使える時間が決まっているので制限無くとはいかないが。
ギルドを抜けてから久々のダンジョン。バンガスは年甲斐もなく心の中でワクワクしていた。
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