第3話「マンホールの底」

身体が水の中でやっくりと沈んでいきます。


忠行君が必死に手を伸ばしています。


私も忠行君の手をつかもうとしました。


しかし身体はさらに沈んでいき手が届きません。


パニックになった私は手と足をバタバタと動かし何とかして上がろうとしました。


水面に忠行君の顔がゆらゆらと歪んで見えました。


もがけばもがくほど、口と鼻に水が入り呼吸が出来なくなり、手と足に力が入りません。


身体がスーッと下に落ちていく感覚が早くなり、やがて手足も動かなくなりました。



瞼が落ち眠くなってきました。




とても気持ちがいい、ああ眠い・・・




その時です。私の両足首に強い痛みを感じました。



驚いて目を開け足元を見ると、知らないおじさんが恐ろしい顔をして私の足首を両手で持っています。



思い出しました。



あの側溝の穴の中に住んでいる人です。

間違いありません。

私が勝手にあの穴に入ったので怒り、マンホールの底に引きずり込もうとしているのです。


凄まじい顔をして私の足首を握っています。


それから逃れようと必死に両足をバタバタさせました。

口から空気が漏れ水が入ってきました。

私は必死に足にまとわりつくおじさんの手を右足で、左足で交互に何度も蹴りました。



しかし大人の力は強く簡単に解けるものではありません。



もうだめだ、とあきらめたその瞬間・・・



私の身体がもの凄いスピードで水面に向かって行きます。



水面に揺れる忠行君の顔が見え水の中で手を伸ばしています。




私は忠行君の手を必死に掴みました・・・




そして私は一人びしょ濡れのまま泣きながら自宅へ帰りました。







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