第28話
「おじゃましまーす」
「どうぞ。ごめんね、本当に、汚くて」
家の中は、何度も謝りたくなる気持ちがよくわかるくらいに散らかっていた。足の踏み場はかろうじてあるけれど、歩くだけでも気を遣う。
「ごめんなさい。おもてなしするようなもの、なくって」
「気にしないで。ぼくだって、お土産持たずに来ちゃったし。それで、ええっと……」
「システムの正常化の件、なのですが」
今この家の中にいるのは子どもだけのようだから、普通に話していいはずだけれど、なんだか緊張してしまう。ぼくは唾液をゴクン、とのんだ。
「ああ、うん」
「私は発明家の子であるというだけで、発明家ではないので、どうにもできないようなのです」
「……え。じゃあ、ずっとスリープ状態ってこと? それって、平気なの?」
「平気ではないです。鍵が頭の中で暴れているってことですから」
「ピィピィが?」
「鍵は、現実世界と仮想世界を切り替えています。強制チェックアウト、というのは、鍵穴を壊し、仮想世界へ入れなくするということ。スリープ状態は、現実と仮想の境目をあいまいにするもので、ええっと……」
「もしかして」
「……はい。私にも、ここから先はよくわからないのです」
相沢さんが、同い年とか、年下みたいにしょげた。
ホテルで会う時はいつもシャキッとしているから、なんだか変な気分。
「じゃあ、どうしようもないってこと?」
「いいえ!」
その声は、先生がうるさい人を注意する時の声みたいに鋭かった。
「ああ、すみません」
「いや、いいよ。それで、何か案はあるの?」
「はい。実は――」
ものだらけの家を出て、ものだらけの庭を歩いた。
これでもない、これでもない、と、相沢さんは必死に何かを探している。
「あ、あった! これです!」
相沢さんの表情が、パァッと輝いた。
これ、と言った機械は大きくて、ロボットのような見た目をしていた。
「私ともうひとり、誰かが一緒になってこれのスイッチを切れば」
「強制的に、あの場所は閉じられる」
「そして、あちらが閉じられれば」
「境目が曖昧になることはない」
ぼくらは見つめあって、頷き合って、機械の左右についている腕のような形のレバーを掴んだ。
「せーの、でいいですか?」
「いっせーの、せっ! じゃない?」
「それは、せっ! で押すのですか? それとも、せっ! と言った後ですか?」
「ええっと……。せっ! って言った後にしよう」
「それでは、まいります。いっせーの、せっ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます