第34話 学びたい人
「教官である私の話なら聞くだろうな」
力尽きるグラウディルの元に、ヴァリナが姿を見せた。
神力の結界が解け、特殊修練場に入り込めたようだ。
すると、状況からすぐに事を理解した。
「
「な、なぜお前が!」
「そこにいるオルトから、お前を疑う声が上がってな」
「……!?」
グラウディルが講師に
オルトは予防線を張り、ヴァリナに伝えていた。
グラウディルは怪しい人物であると。
「最初はどうかと思ったが、私はオルトを信頼している」
「……っ」
「ここ一週間のお前の行動を抑えてもらったよ」
「……ッ!」
グラウディルの授業は至極まともだった。
むしろ有益な授業であり、生徒の役には立っただろう。
だがその裏で、グラウディルはいくつか怪しい動きをしていた。
オルトは得意の隠密により、それをばっちり捉えていたのだ。
「うちの
「なんか変な意味含んでませんでした!?」
それらも加味し、今の状況。
オルトが全てを話せば、十分にグラウディルが“悪”である証拠と言える。
立ち上がれないグラウディルに、ヴァリナは上から告げた。
「観念してもらうぞ。お前は終わりだ」
「ク、クソが……っ」
伏したままグラウディルは意識を失う。
神力を使い果たし、すでに体は限界だったのだろう。
「せめて同じ聖騎士として、運んでやる」
グラウディルはヴァリナが担いでいく。
これから時間をかけ、ゆっくりと調べ上げられるだろう。
すると、ヴァリナは最後に振り返った。
ニヤリとした表情で。
「じゃ、後でそっちでよろしくやってくれよ」
「はい?」
きょとんとするオルトだが、後ろからぎゅっと裾を掴まれる。
「また、助けられちゃったわね」
「!」
レイダだ。
しかし、声は少し元気がない。
色々と事実が判明した後だ。
すぐに頭を整理するのは難しいだろう。
「……っ」
それでも、左右に首を振ったレイダは、ふっと笑みを浮かべた。
「ありがと」
「……!」
頬を少し赤らめた、柔らかい表情。
こんな顔は原作では決して見られない。
これもオルトが導いた結果だ。
そんな表情に、オルトがドキっとしないわけがなく。
(レ、レイダ……)
だが、いつもオタク的興奮ではない。
“推し”という天上の存在に、これまではどこか一歩引いていた。
それが今は、レイダを一人の少女として見てしまい、純粋に胸を高鳴らせる。
「な、なによ。なんか言いなさいよ」
「え、あ、いや! 助けるのは当然だよ!」
「ふふっ。そっか」
「……っ!」
再び緩める表情に、オルトの心臓がバクバクと鳴っている。
すると、いつものようにお互いに口を閉じてしまう。
「「……っ」」
無言ではあるが、気まずくはない。
何となく温かな空間が広がっている。
そんな中で、オルトはある事を思い出した。
「さっき言ってた“学びたい人”って……?」
「!」
レイダはグラウディルの勧誘を断った。
理由は『何よりも学びたい人がいる』からだそうだ。
しかし、誰かは明言していなかった。
「ったく、鈍感なんだから」
「え?」
レイダは少し呆れ気味に背を向ける。
赤くなっていく頬を隠すためだ。
それから、ちらりと視線だけを振り返らせる。
「さっきの技、教えさないよ」
「!」
「わ、わたしの剣で勝手に技作っておいて、教えないなんてありないんだからっ!」
「う、うん!」
オルトは返事をしつつ、目を見開いた。
今の言葉を素直に受け取ったのだ。
「じゃあ学びたい人って、俺──」
「教えないっ」
「ええー!」
しかし、最後まで明言はしないレイダであった──。
★
数日後。
「うーん……」
ここは学園のとある部屋。
レイダは難しい顔を浮かべている。
あれから、グラウディルは
すぐに罰を与えないのは、諸々の事実確認をするため。
しかし、一向に口を割らないようだ。
そうして、学園には再び日常が返ってきた。
レイダも母の真相については、じっくり待つことにしたという。
難しい顔を浮かべているのは、別件だ。
「できた……!」
それが終わったのか、レイダは嬉しそうに声を上げた。
何かを前に持ちながら、目をキラキラと輝かせている。
すると、隣から声が聞こえた。
「あなたの不器用さも中々よね」
「う、うっさいわね!」
作業を見守っていたリベルである。
レイダはリベルにアドバイスをもらいながら、何かを作っていたようだ。
その完成品を手にしながら、レイダはうんっとうなずく。
「これなら、喜んでもらえるかしら」
レイダは誰かにプレゼントを作っていた。
その様子に、リベルは嫌らしくたずねる。
「誰にあげるのかしら~?」
「……聞くんじゃないわよ」
「まあ、どうせオルトでしょうけど」
「ど、どうして!?」
当然、リベルも相手は分かりきっている。
反応が見たくて聞いただけだ。
「すぐに渡すのかしら?」
「それは……」
「え、渡さないの?」
対して、レイダはボソボソっと答える。
「だって、恥ずかしいし、急にプレゼントなんて変だと思われるし……」
「……あなたってめんどくさいわね」
「わ、悪かったわね!」
「あなたらしいっちゃらしいけど」
レイダは恥ずかしがり屋だ。
プレゼントをするにも何か理由が欲しい。
ならばと、リベルが口にした。
「だったら、第二期の席順再編で渡したら?」
「!」
「正直、ほとんど彼が一位じゃないかしら」
次の席替えの時期も迫っている。
このままいけば、間違いなくオルトが成績一位の座につくだろう。
そのお祝いとしてプレゼントすることを提案した。
「く、悔しいけど……そうね」
成績で負けている悔しさも去ることながら、レイダも納得する。
それほどに、今期のオルトは功績を積み上げていた。
オルトから学びたい気持ちも考えれば、彼が一位を取るのは喜ばしいことだ。
「まあ? 別にそうしてあげなくもないけど?」
「本人が居ない所でツンツンするんじゃないわよ」
「し、してないわよっ!」
そんなやり取りをしつつも、レイダはオルトに渡すプレゼントを完成させた。
「喜んでくれると、いいな……」
完成品を見ながら、レイダはふっと笑みを浮かべる。
ドキドキしつつも、渡した時の反応が楽しみだった。
しかし、この時のレイダはまだ知らない。
プレゼントを渡す前に、
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