第33話 積み上げてきたもの
「推しのピンチってのは、ファンが守るものなんだよ」
卑劣なグラウディルに、オルトは覚醒神器を構えた。
あらゆる神器に変形する【
対して、グラウディルは少し目を開く。
「貴様、それはさすがに驚いたぞ」
「……やっぱ出るか」
「貴様
グラウディルが手を掲げた。
神力は輝かしい光を放ち、やがて白金の大剣を形作る。
そのサイズは、グラウディルの高身長よりもさらに大きい。
「恐れおののくがいい、この【聖剣グラウディル】の前にな!」
「……相変わらずだな」
覚醒神器【聖剣グラウディル】だ。
ナルシストにふさわしく、武器は自身の名を冠する。
その大剣を両手に、グラウディルから仕掛けた。
「私自ら、貴様を
「……っ!」
その重い一撃を、オルトは大剣の神器で受け止める。
同時に、横に視線を移した。
「レイダは離れてて!」
「で、でも!」
「いいから!」
「……っ!」
声を上げるオルトに、レイダは従った。
だが、浮かべるのは悔しげな表情だ。
(わたしが介入できるレベルじゃない……!)
二人の攻防が
「ハッハッハ! 思ったよりやるではないか!」
「それはどうも!」
ガン、カン、キンと、鈍い音と甲高い音が入り混じる。
両者の攻防が絶え間なく切り替わっている証拠だ。
「うおおお!」
「甘いわ、ハエが!」
「ぐっ……!」
【聖剣グラウディル】は、近距離武器としては作中
そこから繰り出される攻撃も最強クラスだ。
(やはり、現役の聖騎士は並じゃない……!)
ならばオルトは、手数の多さで勝負する。
多様性では確実にオルトが上だ。
だが、グラウディルはその大きな剣一つで対応してくる。
「確かに面白い神器だ。それは賞賛に値する」
「……っ」
「しかし、それがなんだ?」
激しい攻防の中、グラウディルはフッと口角を上げた。
勝機を見出したかのように。
「貴様の弱点は、一つを極めていないことだ」
【
すなわち他のトップ聖騎士は、一つの神器で多くのことをこなすのだ。
使い方や、神力の出力を工夫することによって。
「練度の低い神器など、百集まろうが千集まろうが、ただのゴミ山に過ぎんわ!」
たとえ多くの神器を使えても、一つ一つが弱ければ意味がない。
グラウディルはそう言いたいのだろう。
対して、一度距離を取ったオルトも、フッと笑みを浮かべた。
「練度が低ければ、だろ?」
「……なんだと?」
「せっかくの機会だ。そこまでお望みなら見せてやる」
「そ、それは……!」
オルトの神器が変形する。
神力によって形作られたのは──
一見ただの変形に見えるが、グラウディルは目を見開いた。
(同僚の神器だと……!?)
普段、グラウディルと同じ団に所属する聖騎士。
その男の神器に、オルトは変形させた。
「貴様、何のつもりだ」
「教えてやるよ、推しがファンにもたらすパワーってものを」
「ほう」
なぜ同僚の神器を知るかは後回しに、グラウディルは再び覚醒神器を構える。
若干言葉はあやふやだが、オルトが本気なのは伝わった。
ならば再度、力を計ってやろうと考えたようだ。
「貴様が思うほど、現役の聖騎士は甘くないわ!」
「──その程度でか?」
「なっ……!?」
グラウディルが仕掛けるが、オルトは真正面から受け止める。
斧の頑丈さを生かした防御だ。
「次、いくぞ」
「……ッ!」
今度はオルトの番だ。
斧でグラウディルを弾くと、即座に神器を変形させる。
次に手にしたのは──槍。
(これも我が団員の神器……!)
同じく、グラウディルの団に所属する者の神器だ。
しかし、オルトの速さに息を呑む。
「考え事をしている暇はないぞ」
「ぐっ……!?」
オルトの槍が、グラウディルの
何度目かの攻防で初めてのダメージだ。
その後も、オルトは神器を変形させながら反撃を続ける。
「どうした、慣れた神器じゃないのか?」
「……っ!!」
オルトの猛攻に、グラウディルは徐々に押され始めた。
そこで初めて気づく。
今までオルトが使っていた神器は、並の神器だったと。
名を
(なんだ、この動きは……!)
強い聖騎士ほど、自分の神器への練度・理解度は高い。
そして、そんな猛者達とも、グラウディルは毎日打ち合っている。
オルトの異常さを。
(現役の聖騎士たちに、何一つ劣らない!? いや、それどころか……!)
攻防の中、グラウディルはぞくっと背筋を凍らせる。
オルトが持ち出す数々の神器。
その全ての練度が、現役の聖騎士
それぞれが人生をかけて磨き上げてきた神器の練度を、オルトは瞬時に切り替えながら同等以上の力を見せてくるのだ。
(どれだけ
人生十周目程度ではきかない。
オルトが神器を扱った経験は、普通の人間には到底不可能なほどあるとしか思えなかった。
これも原作をやり込んだがゆえのもの。
そして何より、その豊富なゲーム経験に加え、この世界に転生してからの努力。
オルトが修行してきた日々の濃さがうかがえる。
魔神の性質を使い、文字通り、寝る間も惜しんで鍛え続けたのだ。
「うおおおお!」
「ぐあっ……!」
オルトの圧倒的猛攻の前に、グラウディルが膝をつく。
まるで何十人もの現役聖騎士を、入れ替わりで相手にしている気分だ。
グラウディルの対応が追いつかなくなってきている。
すると、グラウディルは歯を食いしばる。
「この私が、ガキ一匹に負けるだと……!」
成熟したレイダは目の前にあるのだ。
ここでの負けは許されなかった。
「私をナメるなああああああああ!」
「!」
怒りのままに、グラウディルは神力を爆発させた。
神器には、もはや制御が出来ないほど神力が注ぎ込まれている。
このままでは周辺一帯ごと爆発する恐れすらある。
「オ、オルト!」
「──大丈夫」
「……!」
レイダの呼びかけにも、オルトはただうなずく。
すると、オルトの
覚醒神器の二刀流である。
二つの神器で変形させるのは──最も愛する剣だ。
「やっぱ一番知ってるのはこれかな」
「……!」
「【
レイダの神器【紫桜】を両手に持ち、オルトは同時に振るう。
そこから生み出されるのは、原作のレイダが最後に覚える技。
「二刀流【
「ぐあああああああああっ!!」
一瞬の内に、
【紫桜】の効果により、そこからは小さな斬撃が無数に派生した。
まさに桜が一斉に散るかのごとく、斬撃が咲き乱れる。
「がっ、は……」
グラウディルは前に倒れる。
力は尽き、一歩たりとも動くことはできない。
それでも、諦めの悪さだけはさすがだった。
「これで、どうするつもりだ……」
「……」
「お前ごときの話、誰も聞かんぞ……!」
それには、オルトの後方から返事がある。
「いや、教官である私の話ならば聞くだろうな」
「……! ヴァ、ヴァリナだと!?」
姿を現したのは、ヴァリナ教官だった。
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レイダの神器【紫桜】の二刀流を以て、オルトが
補足すると、【
覚醒神器を持つのは、ほんの数人なので!
それから、今のままだとレイダの神器の立場がなくなるので、いずれ
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