第26話 聖騎士として
「ここは行かせない。聖騎士の誇りにかけて……!」
レイダ、リベル、ミリネ。
三人が神器を構えた。
相手にするのは、十人ほどの傭兵だ。
「おーおー、威勢が良いこと」
「一年で神器とはなあ」
「これは驚いたねえ」
だが、傭兵たちは余裕を崩さない。
彼らは善悪ではなく、単純な“強さ”で雇われている。
ならば──
「怖気づいたかい? 嬢ちゃんたち」
「「「……!」」」
当然のように全員が
それでもレイダ達は引きはしない。
戦いはすでに始まっているのだ。
「口を開いてないで、剣を見なさい」
「「「?」」」
レイダは一つ警告をした。
「
レイダは、チャキンと
その言葉通り、すでに斬っていたのだ。
「──【
「「「がはぁっ……!」」」
広大な範囲に
レイダが鞘に収めると、斬撃は遅れてやってくる。
油断していた傭兵たちは、レイダの速すぎる動作を見逃したのだ。
「ありがとう、ミリネ」
「はい!」
さらに、その威力は【恵みの杖】で強化されていた。
戦いの
しかし、傭兵たちも一発でやられるほどヤワではない。
「そうかそうか……」
「お嬢ちゃん達さあ」
「ぶっ殺されてえみてえだなあ!?」
ここから先は、不意打ちは通用しない。
ならばと、レイダとリベルも肩を合わせる。
「足を引っ張るんじゃないわよ」
「ワタシのセリフよ」
後方からはミリネの援護も加えて。
「私がお二人をサポートします!」
レイダとリベルも、こくりとうなずく。
三人の戦いが幕を開けた──。
★
同時刻、学園近く。
「皆さん、こっちです!」
ルクスが声を上げながら、人々を先導する。
その右手には神器【
すると、ルクスに続く者たちの様子がまるで違う。
「なんだ、あの光は……」
「私たちは助かるのね!」
「さすが聖騎士学園生だ!」
【
それは人々を導き、人々に希望を抱かせる。
唯一無二の性質を持った、まさに原作主人公ならではの神器だ。
また、集団の最後方はエリシアが務めていた。
(やはり、あの光は……)
彼女もルクスの神器に視線を向ける。
何か感じることもあったようだ。
だが、そんな所にも
「ヒャッハー!」
「はっ! エリシアさん!」
上から迫る傭兵に気づき、ルクスが声を上げる。
エリシアの完全なる死角からだ。
だが、彼女は振り向きもせずに対処する。
「構うな」
「な、なんだぁ!?」
屋根の上から飛び降りた傭兵。
その空中に、“白く大きな盾”が出現した。
大きな盾は傭兵を乗せたまま、勢いよく地面に叩きつける。
「──がはぁっ!」
まるで操作されたような挙動だ。
大きな盾がふっと消えると、エリシアが宣言した。
「私の前では、民に傷一つ付けさせん」
「「「わああああああああっ!」」」
大きな盾は、エリシアが制御していたようだ。
この国の王女として、エリシアは高い人気がある。
人々が素直にルクスに付いていくのも、彼女が駆けつけた際に導いたからだ。
そしてこの言葉は、さらに後方の者たちにも向けている。
「出てくるなら、さっさとするがいい」
「「「……!」」」
エリシアが振り返ると、次々に傭兵が姿を見せる。
人々が騒ぐ中、こっそりと近付いて来ていたのだ。
「さすがですなあ」
「王女様は偉いっすねえ」
「俺たちと違ってかっこよくてよお!」
その顔には余裕がうかがえる。
まるで勝算があるかのように。
「そんな盾一つで、民を守れるんですかぁ?」
「「「……っ!」」」
傭兵はニヘラっと笑い、人々を
対して、エリシアは静かに手を掲げた。
「確かに一つでは守れぬかもな」
「そうだろ──って、なんだ!?」
傭兵たちは上空を見上げると、思わず息を呑む。
「しかし、私がいつ一つだと言った」
エリシアから浮き上がるは、
一つ一つが人間サイズの盾が、上空の視界を埋めるほどに具現化する。
これこそが、国の守護者たる王女にのみ許された神器だ。
その名を──【アイギスの
「私は神ではない。王女だ。ゆえに民を守る使命がある」
「「「……っ!」」」
「我が国民を巻き込んだ罪。その身を
エリシアがすっと手を下げる。
すると、無数の盾が流星群のように降り注ぐ。
「【
「「「ぐああああああっ!!」」」
降り注ぐ無数の盾は、傭兵たちを物理的に押し潰す。
無慈悲な“数の暴力”の前には、何もすることが出来ない。
だが、民の大切な家は決して壊さない。
破壊力と精密さ。
その両方を兼ね備えた、並外れた神力制御だ。
「終わりだ」
「「「……っ!」」」
エリシアが傭兵に背を向ける。
その背後に立っている者は存在しない。
まさに一瞬の幕引きだ。
「「「わあああああああああっ!!」」」
傭兵を一掃したエリシアに、割れんばかりの歓声が広がる。
民衆にすでに“恐怖”の文字はなかった。
これこそが民を守り、民を思う王女の姿である。
(す、すごい……)
その圧巻の光景に、ルクスも目を開く。
(こ、これが、現一位エリシア・ディヴァリエ……!)
エリシアの末恐ろしさを理解したようだ。
「さあ、先を急ぐぞ」
エリシアの頼もしさを再認識し、人々は避難を再開する。
そんな中で、エリシアはちらりと視線を移した。
「あとは……他がどうなるか」
★
「はああッ!」
レイダが声を上げながら、縦に【
そこから放たれるのは、
縦の太き一閃から、四方八方に斬撃が派生する。
「──【
「「「ぐわああああああっ!」」」
レイダの大技だ。
だが、これだけではない。
「派手なのが好きね」
「「「……!」」」
傭兵がレイダに気を取られる内に、リベルは集団の懐へ入り込む。
二つの短剣【双翼の
「【
「「「ぎゃああああああっ!」」」
リベルは双剣を広げ、
その速すぎる動きには、傭兵ですら付いて来れない。
リベルのオリフィア王国は、小国。
だが、彼女が目指すのは自由で大きな国だ。
その道を王女自らが切り開かんとする、リベルの想いを象徴した技である。
「ク、クソがっ!」
「こいつら強えぞ!」
二人の剣技を前に、傭兵たちは次々に倒れていく。
また、彼女達はミリネが支えている。
「【緑・癒やしの光】、【赤・恵みの光】」
「ありがとう、ミリネ」
「助かるわ」
たたでさえ、レイダとリベルは聖騎士学園で最上位。
それに加えて、ミリネによって体力は無尽蔵、技の威力は底上げされる。
仲も深まり、抜群となった三人のコンビネーションは、傭兵たちを圧倒していた。
ならばと、傭兵たちも方針を変える。
「後ろの奴を狙え!」
「「……!」」
傭兵たちはミリネに狙いを定めた。
ちょうどレイダとリベルが前に出たタイミングだ。
だが、そこはもう対策済み。
「置いてあるわよ──【
「バカなぁっ……!?」
レイダの【桔梗一文字】は空間を斬り、神器を
ならば鞘に仕舞わず、罠として置いておくこともできる。
その使い方を見抜けず、傭兵はまた一人と倒れた。
結果──
「これが聖騎士学園よ」
最後に立っていたのは、レイダ達のみ。
強者である傭兵たちを残らず倒し、完全なる勝利だ。
「では戻りましょう。まだ人が──」
「ほお、そうかそうか」
「「「……!」」」
しかし、そんなところに新たな声が聞こえる。
否、始めからこうなるように舞台を整えていたのだ。
「想定通りだな」
「「「……ッ!」」」
レイダ達が振り返った先にいたのは──ヴォルクだった。
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