第26話 聖騎士として

 「ここは行かせない。聖騎士の誇りにかけて……!」


 レイダ、リベル、ミリネ。

 三人が神器を構えた。


 相手にするのは、十人ほどの傭兵だ。


「おーおー、威勢が良いこと」

「一年で神器とはなあ」

「これは驚いたねえ」


 だが、傭兵たちは余裕を崩さない。

 彼らは善悪ではなく、単純な“強さ”で雇われている。


 ならば──


「怖気づいたかい? 嬢ちゃんたち」

「「「……!」」」


 当然のように全員が神器具現化マテリアライズを習得している。


 それでもレイダ達は引きはしない。

 戦いはすでに始まっているのだ。


「口を開いてないで、剣を見なさい」

「「「?」」」


 レイダは一つ警告をした。


もう・・斬ってる」


 レイダは、チャキンとさやに神器を収める・・・

 その言葉通り、すでに斬っていたのだ。


「──【桔梗ききょういち文字もんじ】」

「「「がはぁっ……!」」」


 広大な範囲に斬撃ざんげきを飛ばす、神速の一太刀だ。

 レイダが鞘に収めると、斬撃は遅れてやってくる。

 油断していた傭兵たちは、レイダの速すぎる動作を見逃したのだ。


「ありがとう、ミリネ」

「はい!」


 さらに、その威力は【恵みの杖】で強化されていた。

 戦いのぶたを切るにふさわしい、ド派手な一撃だ。

 しかし、傭兵たちも一発でやられるほどヤワではない。


「そうかそうか……」

「お嬢ちゃん達さあ」

「ぶっ殺されてえみてえだなあ!?」


 ここから先は、不意打ちは通用しない。

 ならばと、レイダとリベルも肩を合わせる。


「足を引っ張るんじゃないわよ」

「ワタシのセリフよ」


 後方からはミリネの援護も加えて。


「私がお二人をサポートします!」


 レイダとリベルも、こくりとうなずく。

 三人の戦いが幕を開けた──。





 同時刻、学園近く。


「皆さん、こっちです!」


 ルクスが声を上げながら、人々を先導する。

 その右手には神器【光の刃クラウ・ソラス】を具現化させて。

 すると、ルクスに続く者たちの様子がまるで違う。


「なんだ、あの光は……」

「私たちは助かるのね!」

「さすが聖騎士学園生だ!」


 【光の刃クラウ・ソラス】が放つ、青白い光。

 それは人々を導き、人々に希望を抱かせる。

 唯一無二の性質を持った、まさに原作主人公ならではの神器だ。


 また、集団の最後方はエリシアが務めていた。


(やはり、あの光は……)


 彼女もルクスの神器に視線を向ける。

 何か感じることもあったようだ。


 だが、そんな所にも刺客しかくは現れる。


「ヒャッハー!」

「はっ! エリシアさん!」


 上から迫る傭兵に気づき、ルクスが声を上げる。

 エリシアの完全なる死角からだ。

 だが、彼女は振り向きもせずに対処する。


「構うな」

「な、なんだぁ!?」


 屋根の上から飛び降りた傭兵。

 その空中に、“白く大きな盾”が出現した。

 大きな盾は傭兵を乗せたまま、勢いよく地面に叩きつける。


「──がはぁっ!」


 まるで操作されたような挙動だ。

 大きな盾がふっと消えると、エリシアが宣言した。


「私の前では、民に傷一つ付けさせん」

「「「わああああああああっ!」」」


 大きな盾は、エリシアが制御していたようだ。


 この国の王女として、エリシアは高い人気がある。

 人々が素直にルクスに付いていくのも、彼女が駆けつけた際に導いたからだ。

 そしてこの言葉は、さらに後方の者たちにも向けている。


「出てくるなら、さっさとするがいい」

「「「……!」」」


 エリシアが振り返ると、次々に傭兵が姿を見せる。

 人々が騒ぐ中、こっそりと近付いて来ていたのだ。


「さすがですなあ」

「王女様は偉いっすねえ」

「俺たちと違ってかっこよくてよお!」


 嫉妬しっと混じりに口を開きながら、五人ほどの傭兵が現れた。

 その顔には余裕がうかがえる。

 まるで勝算があるかのように。


「そんな盾一つで、民を守れるんですかぁ?」

「「「……っ!」」」


 傭兵はニヘラっと笑い、人々をおびえさせる。

 対して、エリシアは静かに手を掲げた。

 

「確かに一つでは守れぬかもな」

「そうだろ──って、なんだ!?」


 傭兵たちは上空を見上げると、思わず息を呑む。


「しかし、私がいつ一つだと言った」


 エリシアから浮き上がるは、無数の・・・聖なる盾。

 一つ一つが人間サイズの盾が、上空の視界を埋めるほどに具現化する。

 これこそが、国の守護者たる王女にのみ許された神器だ。


 その名を──【アイギスの聖盾たて】。


「私は神ではない。王女だ。ゆえに民を守る使命がある」

「「「……っ!」」」

「我が国民を巻き込んだ罪。その身をもって思い知れ」


 エリシアがすっと手を下げる。

 すると、無数の盾が流星群のように降り注ぐ。


「【聖盾流星群アイギス・ミーティア】」

「「「ぐああああああっ!!」」」


 降り注ぐ無数の盾は、傭兵たちを物理的に押し潰す。

 無慈悲な“数の暴力”の前には、何もすることが出来ない。

 だが、民の大切な家は決して壊さない。


 破壊力と精密さ。

 その両方を兼ね備えた、並外れた神力制御だ。


「終わりだ」

「「「……っ!」」」


 エリシアが傭兵に背を向ける。

 その背後に立っている者は存在しない。

 まさに一瞬の幕引きだ。


「「「わあああああああああっ!!」」」


 傭兵を一掃したエリシアに、割れんばかりの歓声が広がる。

 民衆にすでに“恐怖”の文字はなかった。

 これこそが民を守り、民を思う王女の姿である。


(す、すごい……)


 その圧巻の光景に、ルクスも目を開く。


(こ、これが、現一位エリシア・ディヴァリエ……!)


 エリシアの末恐ろしさを理解したようだ。


「さあ、先を急ぐぞ」


 エリシアの頼もしさを再認識し、人々は避難を再開する。

 そんな中で、エリシアはちらりと視線を移した。


「あとは……他がどうなるか」





「はああッ!」


 レイダが声を上げながら、縦に【おう】を振るう。


 そこから放たれるのは、いくもの斬撃。

 縦の太き一閃から、四方八方に斬撃が派生する。


「──【桜花おうか爛漫らんまん】」

「「「ぐわああああああっ!」」」


 レイダの大技だ。

 だが、これだけではない。


「派手なのが好きね」

「「「……!」」」


 傭兵がレイダに気を取られる内に、リベルは集団の懐へ入り込む。

 二つの短剣【双翼の烈剣れっけん】を両手に、華麗な剣技をお見舞いした。


「【自由への航路リベルシオン・ノア】」

「「「ぎゃああああああっ!」」」


 リベルは双剣を広げ、螺旋らせんしながら自由に飛び回る。

 その速すぎる動きには、傭兵ですら付いて来れない。


 リベルのオリフィア王国は、小国。

 だが、彼女が目指すのは自由で大きな国だ。

 その道を王女自らが切り開かんとする、リベルの想いを象徴した技である。


「ク、クソがっ!」

「こいつら強えぞ!」


 二人の剣技を前に、傭兵たちは次々に倒れていく。

 また、彼女達はミリネが支えている。


「【緑・癒やしの光】、【赤・恵みの光】」

「ありがとう、ミリネ」

「助かるわ」


 たたでさえ、レイダとリベルは聖騎士学園で最上位。

 それに加えて、ミリネによって体力は無尽蔵、技の威力は底上げされる。

 仲も深まり、抜群となった三人のコンビネーションは、傭兵たちを圧倒していた。


 ならばと、傭兵たちも方針を変える。


「後ろの奴を狙え!」

「「……!」」


 傭兵たちはミリネに狙いを定めた。

 ちょうどレイダとリベルが前に出たタイミングだ。

 だが、そこはもう対策済み。


「置いてあるわよ──【桔梗ききょう一文字】」

「バカなぁっ……!?」


 レイダの【桔梗一文字】は空間を斬り、神器をさやに収めることで発動する。

 ならば鞘に仕舞わず、罠として置いておくこともできる。

 その使い方を見抜けず、傭兵はまた一人と倒れた。


 結果──


「これが聖騎士学園よ」


 最後に立っていたのは、レイダ達のみ。

 強者である傭兵たちを残らず倒し、完全なる勝利だ。


「では戻りましょう。まだ人が──」

「ほお、そうかそうか」

「「「……!」」」


 しかし、そんなところに新たな声が聞こえる。

 否、始めからこうなるように舞台を整えていたのだ。


「想定通りだな」

「「「……ッ!」」」


 レイダ達が振り返った先にいたのは──ヴォルクだった。

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