第27話 遊戯(ゲーム)

 「ほお、そうかそうか」


 傭兵たちを倒したレイダ達の元に、一人の男が降り立つ。

 振り向いた先にいたのは──ヴォルクだ。


 ヴォルクには、リベルが一番に口を開いた。


「この騒動はあなたが起こしたの?」

「そうだが?」

「……ッ!」


 突然の爆発が起きたのも。

 傭兵たちを雇ったのも。

 同級生をターゲットにしたのも。

 全てヴォルクの計画の一部だ。


 すると、リベルは激しく声を上げる。


「ふざけるな!!」


 今までのどのリベルよりも口調が強い。

 彼女は、かつて戦いで悲しみを背負った。

 戦いがどれだけ辛いものかを知っている。 


「あなたも貴族でしょう! こんなことをして恥ずかしくないの!」

「あー生憎あいにく、現実だとは思ってねえからな」

「なんですって……!」

「俺にとっちゃただの遊戯ゲームだ」

「……! 撤回てっかいしろ!」


 ヴォルクは転生者だ。

 それゆえの“ゲーム”発言だが、人々をもてあそんだのは同じ。

 リベルは怒りを抑えられず、ヴォルクに向かって跳んだ。

 

「【自由への航路リベルシオン・ノア】……!」


 放ったのは、傭兵たちを圧倒した大技。

 リベルが持つ中で最大の威力を誇るものだ。


 しかし──


「なんだ? この眠てえ攻撃は」

「……!?」


 ヴォルクには簡単に止められてしまう。


 その場から動くこともない。

 瞬時に【どうの黒剣】を具現化させ、あっさりと受け止めた。

 ため息をついたヴォルクは、呆れ顔を浮かばせる。


「“シナリオ中盤”の技だから、ちょっとは期待したのによ」

「……ッ!? ぐあっ!」


 ヴォルクが剣を振るい、リベルは簡単にぶっ飛ばされる。

 その勢いは止まらず、そのまま近くの家に叩きつけられた。

 一目で分かる力量差だ。


 すると、ヴォルクはゆっくりと視線を移す。


「お前らは楽しませてくれんのか?」

「「!」」


 レイダとミリネの方向だ。


「なあっ!」

「「……ッ!?」」


 だが、二言目にはミリネの目の前にいる。

 その動きは全く目に追えなかった。


「くっ! ──【桔梗ききょう一文字】!」


 咄嗟とっさに、レイダが神器をさやに収める。

 任意のタイミングで斬撃を発動させる技だ。

 前の戦闘から、まだミリネの周囲に罠として残していたのだ。


 しかし、ヴォルクには通用しない。


「知ってんだよ」

「!?」


 ヴォルクは人外の動きで斬撃を回避する。

 レイダの癖、罠の置き方、その全てを分かっているように。

 これも“原作知識”というチートが成せるもの。


 そうなれば、ヴォルクとミリネの接近戦が出来上がってしまう。


「め、恵みの──」

「恵むな」

「きゃあっ!!」


 弱点の一対一を突かれ、ミリネは何も出来ず。

 ヴォルクに襟元えりもとを掴まれ、持ち上げられる。

 戦いとは言え、女子にも容赦ようしゃがない非道っぷりである。


 それには、レイダが声を上げた。


「ミリネを離せ! 【桜花おうか──」

「おっと、ミリネこいつに当たってもいいのか?」

「……ッ!」


 対して、ヴォルクはミリネを盾にする。

 レイダはちゅうちょしてしまうが、これこそがヴォルクの狙いだ。


「その一瞬が命取りだ」

「……!? うぐっ!」


 ヴォルクはミリネをぶん投げ、同時にレイダに迫った。

 今度はレイダの首元を掴み上げたのだ。

  

 そのまま周囲を見渡し、ヴォルクは冷めた目で口にする。


「やはりつまらんな、お前達では」

「「「……っ!」」」


 レイダ達は強者である傭兵を十人倒した。

 だが、その三人の力を合わせても、ヴォルク一人の方が上だ。


「そろそろ終わりにすっか? なあっ!」

「「……ッ!?」」


 ヴォルクは空いている手で神力を放つ。

 ミリネとリベルに対してだ。


「な、なによこれ!」

「取れない!」


 神力によって体をしばられたようだ。

 現成績四位のリベルでもほどくことができない。


「今のお前らには無理だろ。もうちょいストーリーが進行してからじゃねえとな」

「何を言って……これで何するつもりよ!」


 対して、ヴォルクの口角が上がる。


周りの傭兵あいつら、殺してはねえんだろ?」

「……!」

「お前らは優しいからなあ」


 そのまま邪悪な笑みを浮かべた。


「そんな所に、動けない年頃の女が二人」

「アンタまさか!」

「どうなるかは明白だよなあ?」

「……っ!」


 傭兵たちの手がぴくっと動いている。

 もうすぐ意識を取り戻す前兆だ。


「さぞかし、お楽しみの時間が待ってるだろうなあ」

「や、やめなさ──きゃあっ!」


 神力により、動けないリベルとミリネが放り出される。

 傭兵たちの中心に。

 彼らが目を覚ませば、何が起きるかは想像がつく。


 ヴォルクは、レイダを抱えたまま背を向ける。

 

「人気キャラ達のそんな場面もいいが、生憎時間が押しててな」

「ま、待ちなさ──」

「じゃあな」

「……っ!!」


 そうして、リベルとミリネを放置したまま飛び去った──。





 それから少し。


「離せ! 離しなさい!」


 レイダが大声を上げ続ける。

 だが、ヴォルクの神力によって体は動かない。


 移動を続けるヴォルクは、わざとらしく聞き返した。


「どうしたんだよ、そんなに暴れて」

「リベル達を戻して!」

「あー、そんなに嫌か?」


 ニヤリと不気味な笑顔を浮かべて。


「せっかく出来たお友達が、今頃ひどい目に遭っているのがなあ?」

「……っ! 貴様ァ!」

「おっと、まじで動くかと思ったぜ」


 レイダが抵抗を続ける中、ヴォルクが足を止める。


「到着だ」

「……!?」

 

 ここは王都の北端。

 大きくひらけた空間だが、一つ異質なものがある。

 人間サイズの十字架だ。

 

レイダお前は吊るされてろ」

「きゃあっ!」


 神力により、レイダは十字架に叩きつけられる。

 

「お前は姫だからなあ」

「ど、どういう意味よ……!」

「RPGで言うところのヒロインってわけだ」

「はあ……?」


 どこまでも遊戯ゲーム感覚のヴォルク。

 これも彼が楽しむための舞台装置だ。


 すると、ヴォルクは自画自賛するように笑う。


「爆発による混乱、傭兵による人員固定。全て、全てが想定通りなんだよ!」

「き、貴様という奴は!」

「なんだよ。俺も“アンタ”って呼んでくれよ、あいつみたいによ」

「……っ! 触らないで!」


 ヴォルクは、吊るされたレイダの頬を片手で掴む。

 動けないことを良いことに好き放題だ。


 しかし、それもここまで。


「──じゃあ、これも想定通りか?」

「……!」


 ヴォルクの後方から、少年の声がした。

 察したヴォルクは口角を上げる。


「ハッ、お出ましか」


 すうっと宙から降りてきたのは──オルトだ。


「もうお前を許さない、ヴォルク!!」

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