第24話 姿を見せた者

 とある日、聖騎士学園。


 この日は、朝からざわついていた。

 長らく姿を見せなかった者が、席についていたからである。


「……フン」


 現成績五位のヴォルクだ。

 タッグ戦の後から見なくなった彼だが、この日急に登校してきた。

 それには、当然オルトも警戒する。


(どういうつもりだ……?)


 意図は掴めない。

 だが、以前に警告してからは何も起きていない。

 怪しいというだけで、おいそれと捕まえるわけにもいかなかった。


 すると、ヴォルクに複数人が集まる。


「ヴォルク様、登校されたんですね!」

「ああ、色々と用事があってな。すまない」

「いえいえ、無事なら良いんです!」


 ヴォルクの実家──ナイトフォールこうしゃく家と親交のある者たちだ。

 半分は建前だが、半分は本音だろう。

 それよりオルトが気になったのは、ヴォルクの態度の方だ。


(前よりもおだやかだな……)


 そこに悪意は感じられなかった。

 だったらオルトも自ら接触はしない。


(もう少し見守るか……)


 結局、ヴォルクは目立った行動を起こすことはなかった。





「今日はみんなで王都へ行くぞ!」


 朝一番、ヴァリナ教官が告げた。


 ヴォルクが登校し始めてから、すでに数日。

 彼も再びクラスに馴染なじんだ中、課外授業が行われるようだ。


(ヴォルクは態度を改めたのかな)

 

 オルトも警戒を続けているが、ヴォルクは一向に行動を起こさない。

 ならばと少し気を緩めて、教官の言葉に耳を傾けた。


「聖騎士とは、魔人と戦う者のこと。だが、それだけではない!」


 ヴァリナは手を前に向ける。


「人々を守り、“正義の象徴”になってこそ、聖騎士である!」

「「「おお~」」」


 その言葉には、生徒たちもうなずく。


「そのためにも王都の人々が何に困り、何を求めているかを知る必要がある! 全員、着替えたら校門前に集合だ!」

「「「はい!」」」


 生徒たちはすぐに移動を始めた。


 




「全員、班は組んだかー?」


 校門前にて、ヴァリナが呼びかけた。


 生徒たちはグループに分かれて並んでいる。

 各自、二人以上の班を作るよう指示されたようだ。


 当然、レイダはオルトと──ではなく・・・・


「よ、よろしくお願いするわ……」

「もちろん」

「レイダさんお願いしますっ!」


 レイダが組んだのは、リベルとミリネ。

 女子同士で班を作ったようだ。


 その様子をオルトは遠くから眺めている。


(エッッッッッッモ!!)※エモいの意味


 “レイダがメインヒロインと仲良くする”。

 原作では決して見られなかった、その尊すぎる光景に感動を覚えていた。

 これはオルトがはかったようだ。


『せっかくなら女の子の友達と組んだら?』


 この直前、オルトはそう持ちかけていた。

 レイダが交遊関係を徐々に広げていることを知ってのことだ。

 自称「真っ直ぐなオタク」オルトは、別にレイダを独占したいわけではない。


(幸せには、やっぱり同姓の友達も必要だよ)


 レイダに幸せになってほしいのだ。

 その想いから、今回の決断をした。

 その代わりと言ってはなんだが、オルトが組んだのはルクスだ。


「俺はルクスで我慢しよう」

「オルト君ってちょいちょいひどいよね」


 もちろん冗談である。

 オルト自身もレイダだけでなく、ルクスとも冗談を言い合える仲になっていた。

 それぞれが交友関係を広げていたのだ。

 

 そうして、ヴァリナ教官が声を上げた。


「では各自、王都で役に立ってこい!」

「「「はい!」」」


 校門が開き、生徒たちは王都へ駆け出す。

 それぞれやるべきことを見つけるように。






「こんなところかしら」


 荷物を下ろし、レイダは汗をぬぐった。

 すると、後ろのおばあちゃんから感謝をされる。


「すごい神力ねえ、学園生さん」

「あ、いえ」

「ありがとう。すごく助かったわ」

「……! はいっ」


 感謝をされると、レイダも素直に嬉しくなる。

 微笑んだレイダに、同じ仕事をしていたリベルが声をかけた。


「あら、そんな顔もするのね」

「な、なによ! 悪いかしら!」

「いいえ。素敵だと思うわよ」 

「……あ、あっそ」


 レイダは口をすぼませながら、照れを隠すように顔を逸らした。

 それにはミリネも反応を示す。


「私、レイダはもっと怖い方だと思ってました」

「……ストレートに来るのね、ミリネ」

「あ、ごめんなさい! でも、それだけ変わったってことです!」

「……!」


 ミリネはハッキリと伝えた。

 これもオルトのおかげで、少しずつ積極的になっているからこそ。

 呼び方も、お互いに呼び捨てになっている。


 対して、レイダは目をそらし続ける。


「……もう、別におだてても何もあげないわよ」

「「ふふふっ」」


 尊い女の子たちの空間だ。

 もしオルトが見ていれば、即座に失神だっただろう。

 レイダは着実に闇ちルートから離れ始めていた。


 ──しかし、そんな時こそ、性格の悪い奴は照準を定めてくる。





 同時刻、王都のとある場所。


 王都の全貌ぜんぼうが見渡せるこの高い場所で、一人の男が立っている。

 すると、彼の後ろに複数人がババっと姿を現した。


「準備が整いました、ヴォルク様」

「ああ、ご苦労」


 立っていた男は──ヴォルク。

 彼が行動を起こさなかったのは、機会をうかがっていたからだ。

 ヴォルクはニヤリと悪い笑みを浮かべた。

 

「待ってたぜ。この絶好のチャンスを」


 生徒はり。

 教官は校門前に固定。

 その上、街の者まで巻き込めると来た。


 ヴォルクの計画にとっては、これ以上ない舞台だ。


「さあ、地獄の始まりだ」


 ヴォルクはパチンと指を鳴らす。

 それと同時に、街のどこかでドガアアアアアと爆発が起きた──。

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