第9話 謝罪から始まる学園生活

<オルト視点>


「すみませんでしたあー!」


 入学式が終わった裏で、俺は頭を下げていた。

 相手はヴァリナ教官だ。


「はっはっは! 早速やってくれたな!」

「言い訳もないです……」

「面白い奴だとは思っていたが、入学式をすっぽかす奴は初めてだぞ!」


 先ほど、俺とヴァリナ教官は、教頭先生に怒られていた。

 俺は言わずもがな、ヴァリナ教官は一年生の担任だからだ。

 でも、全く嫌な顔をせず、一緒に頭を下げてくれた。

 

「まあ、そう固くなるな。これから一年一緒に過ごすんだぞ?」

「は、はい……」


 入学試験で戦ったからか、俺を気にかけてくれている。

 でも、教官なりの打算もあるようだ。


「お前の本当の力・・・・を見られることを大いに期待してるからな」

「は、ははは……」


 ヴァリナ教官はニヤリと口角を上げる。

 試験では全力を出していなかった。

 それに気づいているみたいだ。

 

「ほら行け、ここがお前の教室だ」


 そう話している内に、一年生の教室に着く。

 俺は教官に背中を押されながら、ガラリと扉を開けた。


「「「……」」」


 入った教室は静まっている。


 まだ入学したばかりというのもでもあるが、式をすっぽかすヤバい奴が一人いれば、気持ちは分からんでもない。

 でも、だからこそ確認がしやすかった。


──錚々そうそうたる顔ぶれだな。


 全員ではないが、一方的に知った顔がたくさんある。

 “セマデン”のメインキャラに、名前付きネームドキャラ達だ。

 彼らと学園生活を共にするのは、ワクワクする他ない。


「どうした、何を固まっているんだ」

「いえ」


 ひとりで気分が高揚こうようする中、俺は自分の席に向かう。

 席順は、事前に受け取った紙に記されている。

 けど向かう途中で、ヴァリナ教官に声をかけられた。


「オルト、違う違う」

「え?」

「お前はあっちだ」


 ヴァリナ教官が指したのは、黒板に向かって教室の右後方。


「すっぽかしたから、減点」

「……!?」

「試験の成績は悪くなかったがな。ま、頑張れよ」

「うぐっ……はい」


 そう、学園の席順には意味がある。

 席順によって、成績が可視化・・・・・・されているんだ。


 順番は、黒板に向かって左の列が最優秀。

 左列の一番前が、現時点の成績(入学試験の成績)1位だ。

 その後ろが2位、またその後ろが3位……となり、埋まれば一つ右の列にずれる。


 つまり、左前方が1位、右後方が最下位である。

 なお席順は、定期的に更新される。


 俺は受験成績が20番目だったのでそこに座ろうとした。

 けど、入学式をすっぽかして減点。

 いきなり“下から2番目”らしい。


「上がってこいよ」

「はーい……」


 いきなりやらかした代償は大きいみたいだ。

 俺は後ろの方から、一方的にレイダを見つめたかったのに。


 そうして、トボトボと席につく。

 すると、早速後ろの人が話しかけてきた。


「ははっ、いきなり面白い人だね」

「ん? ──ッ!」


 その顔には、さすがに驚きを隠せない。


 そうか、セマデンは王道の成り上がり物語。

 だったら、受験は“ギリギリ”で合格するよな。

 マイナス100点を含めても、物語の強制力には逆らえないらしい。

 

「僕はルクス。よろしくね」

「オルトだ。よろしく」


 よろしくな、“原作主人公”。




 

<三人称視点>


「……また、いない」


 周りを見渡しながら、レイダはふとつぶやいた。


 午前のレクリエーションを終え、歩いているのは食堂。

 探している人物は、オルトである。


(本当に謎だわ)


 入学式の直前、レイダは強いツン口調で突き放してしまった。

 動揺していたとはいえ、少しは悪いと思っている。


 だが、その後にオルトは入学式をすっぽかし、下位の席順になる始末。

 あれほどの実力を持っておきながら、愚行・・を繰り返すオルトを疑問に思っていた。

 もちろん自分のせいとは気づいていない。


 そもそも、オルトの試験成績が20位だったことにも納得していない。


(わたしよりも強かったわよ……)


 その思いは、食堂へ来る前にヴァリナにぶつけたようだ。



────


 少し前。


「どうしてアイツが20位なんですか」


 ヴァリナに向かって、レイダは問いかけた。

 教官に向かって褒められた態度ではないが、ヴァリナも構わない。

 だが、明確な回答は持っていなかった。


「私も調べたよ。すると奇妙なことが分かったんだ」

「?」

「彼がバッジを入手した時の情報は、どの教官も持っていなかった」

「!?」


 試験では至る所に教官が配置され、常に受験生を採点している。

 だが、教官陣にオルトを見た者はいなかった。


 代わりに目撃されたのは、不自然に倒れている受験生たち。

 その隣には、「推しの悪口滅殺」とのメッセージが残されていたという。

 言葉の意味は未だ不明だ。


「生憎私は参加するのみで、採点係ではなかった。最後の戦いは無判定となる。つまり、彼の記録は一つとして残っていなかったんだよ」

「……」

「で、バッジを五枚獲得したのが20人。21位以下は四枚獲得者のため、オルトは20位とされていたわけだ」

「……っ」


 その結果に、レイダは顔をしかめる。


「思うところはあるだろう。だが、心配はいらない」

「え?」

「本当に実力があるなら、いずれ上がってくるさ」

「……フン」


 ヴァリナの言う通りだ。

 それは正論だと思ったのか、レイダは背を向けた。

 すると、最後にヴァリナが声をかける。


「それにしても、お前が人に興味を持つとはな」

「……!」

「情が湧いたか?」

「まさか」

 

 だが、レイダは振り返りすらしない。


「自分の為になると思っただけよ」


────



「……」


 軽く回想を終えたレイダ。

 その間にも辺りを見渡すが、やはりオルトは見つからない。


(で、当のソイツはどこにいるのよ!)


 自分から人を探す経験などあるはずなく、若干イラつき始めていた。

 だが、これはオルトが避けている・・・・・・・・・からである。


(おー、あぶねっ)


 オルトは柱などを使い、レイダから隠れていた。

 これも朝の失態をかんがみてである。


(やっぱり俺には陰から見守る方が性に合っているな)


 オタクとは、ひっそりと推しの活躍を見守る者。

 信念ほどではないが、オルトはなんとなくそんな意識を持っていた。

 また、真の理由は他にある。


(魔神の俺が、彼女に近づきすぎるのは危険だ)


 レイダは、魔人による辛い過去を持つ。

 唯一の味方であった執事を、魔人に殺されたのだ。

 それはレイダが心を閉ざすきっかけになった事件と言える。


 だからこそ、レイダは剣を握り、自分を高めることを決意した。

 親しい者を作ろうとしないのも、悲しい別れをしないためだ。


 だが、そんなレイダは、今オルトを探している。

 当然これにも理由はある。


(アイツから盗める技術は盗みたい)


 レイダはどこまでも向上心が強い。

 現時点で抜けているであろうオルトから、学ぼうとしていたのだ。

 それでも、結局見つかることはなかった。


(よーし、セーフ!)


 オルトこっそりと昼食を摂ることに成功し、胸をなでおろす。

 しかし、運命とは存在するものである。






「では、発表したペア同士で模擬戦をしてもらう」


 午後の授業。

 オルトの前には、レイダが立っていた。


(おいいいい!)


 せっかく避けていたはずが、教官の指示には逆らえない。

 オルトはレイダとペアを組まされたのだ。


「フッ」


 心の中でツッコむオルトに対し、レイダは口角を上げた。

 早速チャンスが巡って来たと思ったのだ。


(その力、確かめさせてもらうわ!)

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