第10話 直接対決

 「では、発表したペア同士で模擬戦をしてもらう」


 午後の授業。

 オルトの前には、レイダが立っていた。


(おいいいいい!)


 推しを見守るため、オルトはレイダを避けていた。

 だが、授業で指示されては仕方がない。


 これは運命──否、作為的・・・なものである。


(計ったな、あの教師いいい!)


 ヴァリナに目を向けると、てへっと舌を出していた。

 どうやら二人の対決に興味があったようだ。

 周りが次々と模擬戦を始める中、一向にオルト達から視線を移さない。


 だが、レイダにとっては願ってもない機会だ。


(まずはコイツの実力を計る)


 試験を通して、オルトの不可解さは読み取っていた。

 もしかすると、とんでもない奴かもしれないと。

 同時に、強者ならば学びを得ようと考えていたのだ。


「さっと構えなさいよ」

「え」

「構えないのなら、わたしからいくわよ!」

「……!」


 レイダは紫の直剣【おう】を神器具現化マテリアライズさせ、オルトに迫る。


 授業時間は限られているのだ。

 一心に強さを求めるレイダには、一秒たりとも無駄にはできない。


 対して、オルトは攻撃を受けるのみ。


「アンタ、どうして攻撃してこないのよ!」

「いや、あの、宗教上の理由で……!」

「はあ!? ふざけんじゃないわよ!」


 レイダには意味不明だが、オルトもあながち嘘ではない。


(推しに攻撃なんて出来るか!)


 レイダ教の狂信者であるオルトは、レイダに攻撃をすることなどできない。

 信仰対象に手を上げるなど、もっての外だ。

 結果、オルトは受けに回るが、それがまたレイダに違和感を持たせる。


(チッ、この防御力……!)


 名前を聞いたことがなければ、四新星でもない。

 ただの同い年の少年だ。

 そのはずが、今までの誰よりも防御が堅い。


(崩せる気が、しない……!)


 実際に相手にして、ようやく分かる。

 この防御力は、明らかにヴァリナをもしのぐ。

 ただの無名の少年が持つにしては、あまりにオーバーパワーだ。


(間違いない。やはりこの男は何か隠している……!)


 レイダは確信を得た。

 ならば今度は、どう崩そうかに神経を注ぐ。


「おっと!」

「チッ!」


 しかし、攻めれば攻める程、その壁の高さに気づかされる。

 同時に、その防御の美しさにも。


(こんなに簡単に防ぐなんて……!)


 これには、実はトリックがあった。


 ゲーム内用語で言えば、“パリィ”。

 ゲーム時は、ガードボタンを完璧なタイミングで押すことで、ダメージを一切受けない防御をすることができる。


 この世界では認識できないようだが、ゲームには確かにその要素が存在した。

 知識があるオルトは、彼女の攻撃を全て正確にパリィしていたのだ。


(レイダの攻撃はぜーんぶ知ってるからな!)


 パリィのタイミングで攻撃を受け流せば、防御は崩れにくい。

 結果、全てを簡単に防いでいるように見えたのだ。


 対して、レイダは悔しさを浮かばせる。


(そんなに余裕の表情で……!)


 オルトの防御力は、レイダを好き過ぎるゆえのオタク知識からくる。

 だが、そんな事情を知るはずもないレイダは、さらに神力を高めた。

 数で上回れないなら、威力で上回ろうと考えたのだ。


「だったらこれで!」


 しかし──


「そこまでだ」

「……!」


 攻撃の前に、ヴァリナに止められる。


「神力を高め過ぎだ。この授業でそれ以上は必要ない」

「くっ……」


 授業の始めに、模擬戦の概要を説明されていた。

 神力よりも、攻め方に重きを置けと。

 一年生では、まだ神器具現化マテリアライズできない者がほとんどだからだ。


 すると、オルトはほっとしながら手を上げた。


「み、みたいですが……」

「……フン」


 対して、レイダはそっぽを向いた。

 その表情を周りに見られたくなかったのだ。


(く、悔しい~っ!)


 拳を握りしめ、顔をこわばらせていた。

 あまりの想いの強さに、若干涙ぐんでも見える。

 闇墜ち後には決して見せないような、かわいげのある表情だ。


 その思いから、レイダは決意をした。


(コイツの秘密、絶対に暴いてやるわ……!)


 すると、頬をぷっくらふくらませて早足で去っていく。

 その後ろでオルトは膝を付いていた。


(か、かわいすぎ、だろ……)


 そして、そのまま前に顔から倒れる。


「がくっ」

「オ、オルト!? どうした!?」

「ヴァリナ教官、俺はもう死んでもいい」

「急に何を言っている!?」


 こうして、早くも推しから認知を受けたオルトであった。


 だが、それだけではない。

 レイダとヴァリナの他にも、彼を不審に思う人物がいた。


「ほう……」


 同じクラスのある男だ。

 オルトに何かを感じたのか、不自然な笑みを浮かべる。


 そうして、学園の初日は幕を閉じた。





<オルト視点>


「……さて」


 食堂で夕食を終え、俺は部屋に来ていた。

 

 聖騎士学園は全寮制。

 人間界には帰る家がないため、俺は試験時から部屋を貸してもらっていた。

 でも、今日からはルームメイトが来る。


 そのルームメイトが問題だった。


「どう出るかな」


 俺が転生した時、考えていたことがある。

 この世界の転生者は俺だけなのか、と。

 他に転生者がいてもおかしくない。


 その筆頭が──今から来る人物だ。


「あ、オルト君」

「よう、午前ぶりだな」

 

 入ってきたのは、ルクス。

 今朝あいさつを交わした“原作主人公”だ。

 でも、挨拶は交わしたのみで、素性は知れなかった。


「……」

「オルト君?」


 転生と言えば主人公だろう。

 前世の知識+主人公補正なんてものは手が付けられない。

 それに、こいつはいずれレイダと敵対するかもしれない。


 その時までになんとか判別したいが……困ったな。


「で、今日の授業でさ~」

「お、おう」


──こいつ、めっちゃ良い奴だ。


 じっと見つめた俺に対し、すかさず話題を提供。

 気が利くかと思えば、ちゃんとオチまであった。

 不覚にもちょっと笑ってしまった。


「あと食堂でね~」

「……はははっ!」

 

 出てくるのは、普通に面白い世間話ばかり。

 ちゃんと光の主人公らしくて、陰キャの俺にはまぶしい。


 でも、これだけでは分からない。

 少し揺らしてみるか。


「なあルクス、魔人ってどう思う」

「え? そうだなあ」

「……」


 俺が計ろうとする中、ルクスは真っ直ぐ答えた。


「分からない」

「!」

「確かに魔人は人にあだなす存在だよ。でも、僕たちは彼らのことを全然知らない」

「……で、お前は結局どうしたいんだ」


 俺は胸の鼓動を感じながら、答えを促した。


「善悪を見極めたい」

「……!」

「そのためには力が必要だ。だから僕はこの聖騎士学園に入学したんだ。まだまだ落ちこぼれだけどね」

「……そうか」


 思わずぞくっとする。

 ゲーム内と全く同じ回答が返ってきたからだ。

 実際目にすると、主人公らしさが伝わってくる。


「どうしてそんなことを?」

「い、いや、なんでも……」


 可能性だけ考えれば、一字一句覚えているのかもしれない。

 でも、この表情の前に、その線はないと見た。


「改めて、これからよろしくな」

「うん、こちらこそ!」


 他にも転生者がいる。

 それはどうやら、俺の考えすぎだったみたいだ。

 俺たちは握手を交わして、そのまま眠りにつく。


 うーん、ただの良い奴!

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