第三章

第33話:大攻略祭

 ──大攻略祭。

 それは、招待制の大規模ダンジョン攻略イベントであり、年に2回行われる。

 主催は大手ダンジョン攻略配信者の大富 豪氏。国内国外を問わず、ダンジョンを攻略して一大資産を築いた伝説の個人勢配信者。

 今でこそ既に引退はしているものの、彼の後継者が後にJURAを始めとした大規模配信グループの礎となったことは言うまでもない。

 

「──その、招待状がッ!! 届いたんですッ!!」

「おおおおおおおおッ!!」

「やったじゃないですか!!」

「招待状? 美味いのカ、ソレ」

「食いモンではねーよ」


 ルカがわざわざノートパソコンを見せにやってきたのは──つまりそう言う事である。せめてスマホを持って来いよ。

 よっぽどテンションが上がっていたのかもしれない。

 だが現に俺もテンションが上がっている!

 何故なら、ドレッドノータスが注目を集め、チャンネルの実力が、ひいては俺の実力が認められてきたから──


「ちなみにメールの最後の文は”世界初の獣人をメンバーに加えた貴チャンネルの活躍を期待しております”とあって」

「あっ!! やっぱりデルタが目当てなのね!!」

「デルタは人気者だからナ!!」


 俺はずっこけそうになった。

 このチャンネルの人気の大部分を占めるのは、この獣人少女・デルタである。 

 ドレッドノータス討伐作戦でネット上での俺の評価も多少は上がりはしたが、依然としてこの傾向は変わらない。

 良いんだけどさ! 別に、人気や名誉の為にダンジョン潜ってるわけじゃないけど、仮にも俺の名前を冠したチャンネルなわけで……それで当の本人がオマケ扱いされるのはちょっと違うんじゃないかって思う訳ですよ。

 と、とにかく、だ。

 大勢でダンジョンを攻略するというイベント自体に俺は興味がある。それだけ難易度が高いということだし。


「──このメグルChの大躍進の為、そして知名度の更なるテコ入れの為にッ!! 参加しない手はありませんッ!!」

「そして何より、新たなる冒険の為にッ!!」


 と、言ったものの。

 俺自身も、大攻略祭のルールをあまりよく知らない。

 この時期になると、毎年配信者や攻略者たちが盛り上がっているなー、とは思っており、ダンジョン配信界隈も大盛り上がりとなる。

 しかし、いざ自分たちが参加する側になると確認しなければならないことがあまりにも多い。


「ねえ、ルカちゃん。今年の大攻略祭って何処でやるの? 確か毎年変わるわよね?」

「今年のステージは大規模迷宮・魔天回廊です!」

「魔天回廊? あんまり聞いた事のない場所だな……」

「魔天回廊は昨年発見されたばかりの巨大ダンジョンで、非常に難易度が高く、平時での立ち入りが禁止されているダンジョンです。知らない人が多いのも無理はありません」

 

 成程、そもそもが立ち入り禁止なら誰も潜れない。ネットでも話題になっていない訳だ。

 むしろ、この大攻略祭の為に今まで攻略者を堰き止めていたと考える事も出来る。

 それだけダンジョンの規模も大きく、危険度が高いということなのだろう。


「大攻略祭はこの手の大規模ダンジョンを実力のある攻略者たちで一斉に調査するという目的も兼ねているんです」

「だから、出来たばかりのダンジョンに飛び込んでいくなんて、普通なら余程の命知らずしかやらないってわけだわ……そうよね? 巡さん?」

「おっしゃる通りです……」


 仕方ないじゃないか、前回のミューの事件の時、調さんは居なかったんだから……。

 この人、自分だけダンジョン攻略に参加出来なかったの、未だに根に持っていると見える。

 とはいえ、未だに調さんには俺の中に流れている竜王の血だとか、ルカの前世の事とかは話せてないんだよな。


「なんか最近、壁を感じるのよねー……私が居ない間に何があったのかしら」

「言ったじゃねーか、近場にダンジョンが出来たから、張り切っちまっただけだって」

「そうですよ、調を仲間外れにしたいわけじゃないんですから!」

「デルタは何も言わねーゾ……」


 俺達だってしたくて仲間外れにしているわけではない。

 というより──政府から口止めされている。

 この世界に蔓延る災害・ダンジョン。それを作った張本人たる獣人の「王」達。

 彼らは本体の強さ以上に、周囲の環境を書き換えてダンジョンを作る”権能”を危険視されており、トップシークレットならぬトップタブー扱いになっている。

 今、このシェアハウスも政府からは監視対象となっているのだ。


「ただですね、1つだけ皆さんに言っておかなければいけない事がありまして……」

「何だよ?」

「……わ、私も招待されてるんですよ。今回の攻略祭」

「え”ッ」

「ど、どうしましょう、断るのは簡単なんですが」


 ……そ、そりゃあ困った。

 だって主催は、このチャンネルの裏方がルカだって知らない。

 それにルカに招待が来るのも納得だ。あれから更新が止まっているとはいえ、今でもルカは150万人クラスの人気配信者であることには変わりないからだ。


「もう1度、個人勢として活動してみないか、というお誘いまで来てて。どうやら大富氏は私の実力を高く買ってるみたいです」

「JURAの人気配信者なのに、今まで呼ばれなかったのか!?」

「それが去年は丁度参加時期にインフルに罹ってしまって……」

「それで辞退したのか……」

「まさか、JURAを引退した私にまでお声が掛かる事になるなんて……どうしようかと思ってて」

「参加すれば良いんじゃねーか?」

「え?」

「ずっと参加したかったんだろ、大攻略祭」


 だってルカの本業は、何処までいってもダンジョン攻略者だ。

 今は俺達のチャンネルを伸ばす為に裏方を精力的にやってくれているが、こいつの実力が生きないのはとても勿体ない。


「抜刀院ルカの復活配信には丁度良いんじゃねーか?」

「いや、それが色んな問題が噴出するわよ、それ」

「何でだよ?」


 調さんが難しそうな顔で言った。


「ルカちゃんが居なかったら、うちでドローンを操作するの誰がやるの?」

「あっ……そうか」

「それにナビゲートも、巡さんのスキルの事を知っている人じゃないと務まらないじゃない?」


 ……それもそうだ。

 此処に来て、俺の第二の秘密が足を引っ張ってくる。

 それは俺のスキルが「粘膜接触(可能な限りオブラートに包んだ表現)をすることで相手のスキルをコピーする」というものだからである。

 こんなものがネットに流れれば、大炎上待ったなし。

 未だに俺は「ハンマーに何かこういい感じにエネルギーを纏わせる能力」で通しているのだ。

 コピーしたスキルも無暗やたらには使えない。配信を盛り上げつつ、このスキル事情を如何にして隠し通すかが俺の課題なのだ。


「となると、新しいナビゲーターか……思いつかねーな」

「いえ、決めましたっ!! 私、今回も辞退しますっ!!」

「良いのかよ? そんなの」

「だって、このチャンネルは……私と貴方で作ったものじゃないですか」


 ルカは──すぐに辞退のメールを打ち込み始めた。

 良いのかよ、そんなに爆速で決めて。

 

「それに、今まで姿を隠していたのに……大攻略祭に招待されたからって出てくるのもちゃんちゃらおかしい話です」

「だけどなあ……」

「それに私は貴方のパートナーなんですから! 今更それを覆すつもりはありませんっ」

「……そーだったな」


 そうだ。

 俺は冒険をし、こいつが冒険をプロデュースする。

 そう決めたんだったな。俺達は、沢山の秘密を抱えながら──今日も人気配信者への道を、そしてダンジョンの謎を解き明かすべく進んでいる。


「その代わり、調と適当なダンジョンで一暴れしてきますっ」

「そんな軽いノリでダンジョン攻略を決めないで!?」

「でも、調との約束、まだ果たせてませんでしたし。それに、調に見せたい技、沢山あるんですよ」


 そう言えば、色々あって、ルカは調さんとのダンジョン攻略が結局お流れになってしまっていたんだっけか。


「良いじゃねえか、親友同士久々にダンジョン攻略するんだろ?」

「留守番は任せロ!」


 というわけで後日。ルカと調さんは東京内にある、とある高難易度のダンジョンに向かっていった。

 ……ちなみに、戦果は上々。

 配信していないのが勿体ないくらいだった。

 一応俺とデルタはドローン撮影で二人を見守っていたが、まあ危なげのない事。

 調さんとルカの連携はハッキリ言って完璧だ。

 ルカが攻撃しきれない所を、後衛の調さんがカバーすることで、バックアタックをケアしている。

 しかし。


「いつの間にそんな技覚えてたの!?」

「ふふーんっ、これが調に見せたかった技ですよっ!」


 調さんにとって誤算だったのは、ルカが身に着けた「斬撃飛ばし」であった。

 亜音速を超える斬撃がソニックブームを巻き起こし、遠くの敵も両断するというもの。

 先日起こった鳥王・ミューに纏わる事件をきっかけに、ルカが覚醒した新しい技である。

 それを初めて目にした調さんはとても驚いていた。

 ドローン越しに会話を聞いていた俺達にも分かるほどに。


「すげーな、ルカ……改めて見るととんでもねーよ。裏方にするのが勿体ないくらいだ」

「何で斬ってないものが斬れてるんダ……?」

「俺に分かる訳ねーだろ……」


 結果。

 ルカの戦果は、恐らく以前以上のものになっていた。

 調さんも、負けじとアシストを行っていたが、文字通り八面六臂の活躍をしていたルカに追いつくだけで精一杯。

 なんせ、遠くにいる敵も、ルカがあっという間に斬撃を飛ばして倒してしまうのだ。

 これでは後衛の立つ瀬がない。


「まさか、見ない間にこんなに離されてるなんて……」

「いやいや、でも、調が見えない所をカバーしてくれてるから無我夢中で刀を振るえるんですよ」

「そうかもしれないけどぉ……」


 すっかり、調さんは意気消沈してしまうのだった。

 

「私って本当に必要なのかしら……」

「調!?」

「いやいやいや、卑下することねーって調さん!! 今回の攻略だって足を引っ張ってる所は無かっただろ!? そりゃ普段はドジだが、ギター握ったら別人みたいになるじゃねーか!!」


 そりゃあまあ確かに「エッジの利いた香水」と「えっちな気分になる香水」を間違えて焚いて大惨事を引き起こしたり、その香水を割ってしまって大惨事を引き起こしてしまうような事はあったよ。

 だけど、ダンジョンに潜ってる時の調さんはすっごく頼りになるんだ。それは間違いないと思う。多分。

 ただ──パワーアップしたルカが強すぎる。それだけの話なのだ。

 とはいえ、調さんには「自分がルカの友達である」という自負があるのだろう。




「決めたわっ!! この音石 調、大攻略祭までに強くなるのを宣言しますっ!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ワンナイト相手が有名ダンジョン配信者だった件 タク @takugunkantenryu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画