第7話:コラボ告知するよ!!

 ※※※




「──コラボのお誘いが来ました」

「……」

「……コラボ?」




 翌日。俺達は、すっかり溜まり場と化した調さんのマンションの部屋で落ち合っていた。此処は防音室もあるし、配信に丁度良いのだ。

 マンション代を少し肩代わりするとはルカの弁。相変わらず無駄に悪知恵だけは回る。当然調さんが断れるわけもない。こうして使わせて貰っているわけだ。

 それはさておき、ルカのノートPCの画面には「祝! Ch登録者数15万突破!」と書かれたヘッダー、そしてにっこにこ笑顔の阿形ウミコが映っていた。

 コラボ……コラボっつったよな、コイツ。


「コラボってあのコラボだよな、配信者同士の共演ってヤツ」

「相手は阿形ウミコ……この間、おにーさんが助けた相手です」

「マジか、目ェ付けられるの思ったより早かったな……」


 正直、阿形ウミコにこのチャンネルが見つかるのは予想はしていたし、ルカも彼女の存在を加味してこのタイミングで配信を始める事を俺に勧めたのだろう。

 ルカを一方的に慕うウミコは、ルカと同じスキルと技を使った俺を探している。


「この子と何かあったの? そこそこチャンネル登録者数は多いけど」

「個人勢にしては多い方ですよ。で、おにーさんはたまたま、危険生物に襲われてたこの子をスキルで助けたんです」

「おかげでバズっちまってな……」

「でも、それだけじゃバズらなくない?」

「襲ってきたのは、上層にはまず出て来ず、深層でも1度しか発見されたことがない巨大アースロプレウラだったんです」

「アースロ……ああ、あのデカいムカデ! それなら納得だよ!」

「ヤスデです。とはいえ、あのサイズの個体は私も1度しか戦った事が無い……というか、私しか遭遇した事がないはずです」


 ルカも戦ったことがあったのか、あの巨大ヤスデと!

 配信を全部目を通したわけじゃなかったから、初めて知ったな。


「正直、アレは本来なら討伐作戦を大人数の攻略者で組んでいかないと倒せないシロモノです。とはいえ、2回共突発的に出現して攻略者たちを危険に晒してます」

「……じゃあ俺が倒したアレって本当にヤバかったんだな」


 過去に巨大ヤスデは2体現れた。

 1体目がルカの倒した個体、そして2体目が俺が倒した個体だった、ってわけか。

 その両方が”抜刀絶技”に破られている辺り、因果なものを感じる。


「ルカはどうやってアースロを倒したんだ?」

「もう無我夢中! 必死でした! 幸い、私の居たポジションが良かったので背後を取って不意打ちで滅多斬りにしましたよ。動かれてたら間違いなく被害が大きかったです」

「その配信見たよ。アースロ、バラバラになってたよね」

「バラバラ!?」

 

 はぁー……すっげー……バラバラか。俺は頭砕いただけだもんな。

 やっぱりスキルをコピーした所で、使う人間の技量が無きゃダメなんだな。


「納刀と抜刀を繰り返せば、何度でも”抜刀絶技”が使えるもの。ルカの最大の強みは、刀の技量とスキルがかみ合っている事ね」


 つまり必殺技を意図して何度でも出す事で大ダメージを出し続ける事が出来る、ってわけか。やっぱルカは凄いんだな……。


「でも、あの配信はある意味黒歴史ですよ……視聴者からは”ワンサイドゲーム過ぎて面白くない”って言われちゃって。あんなの一撃で決めないと危ないに決まってるじゃないですか」

「コメントは本当に自分勝手だな……」


 被害を出さないためにワンパンしないといけなかったのに、文句を言われるのは可愛そうだな……。

 確かに目を通したルカの配信、適度に危険生物の事も見せながら「プロレス」していた気がする。

 事務所からも指示を出されてたのかもしれない。


「ただ一つ言えるのは、巡さんもルカちゃんも、同じレベルの危険生物を倒せる力はあるってことね」

「そう言われると、少し自信が出てきたな」

「調子に乗せないで下さい。最初のはマグレ、こないだはディロフォの群れに苦戦してました。大事なのはこれから──マグレを、マジにしていくことです」

「……流石、師匠は手厳しいな」


 実際、その通りだ。どんなに強い攻撃も、当てられなければ意味が無い。”抜刀絶技”とウォーハンマーの相性はまだまだ未知数だ。

 どんなスキルも、結局使いこなせなければ無用の長物。そんなときに役立つのは結局、鍛えた技術とフィジカルなのだろう。


「で、話を戻しますが、阿形ウミコは私の居場所を探してます。そして今の彼女は登録者15万人クラス」

「アレから3倍近く登録者増えてるじゃねえか」

「バズの力はそれだけ凄いんですよ」

「その、ウミコちゃんって子はどんなスキルを持ってるの?」

「”契約”。分かりやすく言えば”テイム”です」

「割とありふれたスキルだな」

「ですが、この”契約”というスキルも、”魔音奏”同様に個人差が出やすいんです」


 ”契約”──またの名をテイムと呼ばれるこのスキルは、有体に言えば動物と心を通わせて主従契約を結ぶスキルだ。

 ダンジョンで立ちはだかる危険生物に限り発動でき、使う人間と使われた危険生物、双方の合意が取れた場合に、仲間に出来るというものである。そして、割と習得者が多いことでも知られている。


「だけど個人差が出やすいってどういうことだ?」

「双方の合意……つまり、テイムする側が相手の事を心から仲間にしたいと思っていなければ、前提としてテイムは出来ません」


 ははーん……言われてから動画を漁ってみたけど、何となく分かってきたぞ。

 このウミコって子、可愛い生き物しかテイムしていない。いや──

 つまり、”契約”スキルは……スキル所持者の動物への好き嫌いがモロに出る訳だ。

 

「たとえばウミコちゃんが巨大ヤスデの事を戦力として仲間にしたい、と思っていても……ウミコちゃんがそもそも虫が苦手だと”契約”は出来ないんです」

「ある意味難儀なスキルだな……理性よりも感情が優先されるわけだ」

「その代わり、”仲間にしたい”と思った生き物に対しては懐かれやすい体質にもなるの」


 その結果。

 このウミコって子は既に何匹かのキラーカンガルーを自宅で飼っているらしかった。

 動画には、自宅でウミコに可愛がられているキラーカンガルーの姿を見る事が出来る。

 キラーカンガルー……大昔のオーストラリアに生息していた肉食の有袋類で「エカルタデタ」とも呼ばれているらしい。言いにくい名前なんでキラーカンガルーでいいや。


「動画を見る限りカンガルーってよりはデカいワラビーだな……おっかない牙が生えてるけど」

「カンガルーはボクサーみたいにイカついものね。これはどっちかと言えばワラビーね」

「餌を食べてる姿は可愛いんですけどね……ダンジョンでは危険な相手ですよ、キラーカンガルー」

「こっちの喉を狙って噛み切ってくるものね」

「怖ァ……」


 難易度の高い洞窟の時には、鍛えた精鋭のカンガルーを連れて行くらしい。

 歯は非常に鋭く、素早さもあって恐竜型の危険生物の喉を掻っ切って殺すくらいは訳ないらしい。


「こないだは難易度の低い洞窟だったから、カンガルーを連れていかなかったみたいですね」

「でも連れていかなくて正解だったんじゃない? キラーカンガルーであのアースロ、相手になったと思う?」

「あの硬い鎧はキラーカンガルーでは相性が悪いでしょう。ペットが死んで悲しい思いをするよりはマシだったかもしれません」

「1人で行ったってことは、そこそこ自信があるってことだよな。ウミコちゃんって1人で戦っても強いのか?」

「強いですよ。テイムが無いなら”契約”は実質スキル無しです。だから、スキル覚醒の恩恵で超人化した己の体だけでダンジョンを攻略する回もあります」


 ……どうやら、何処までもあのアースロが相性が悪かっただけらしい。

 動画を見る限り、ロングソードの腕前は俺以上だ。ディロフォじゃ相手にならないし、ラプトルの群れに囲まれても一方的に斬り伏せてる。

 強敵相手は、キラーカンガルー達を嗾けて、ジャイアントキリング。大型肉食恐竜の”狂牛カルノ”を瞬殺した回もある。

 元々バズる素養はあったが、イマイチチャンスが無かった子……という印象だ。


「……とはいえ、このチャンスを逃す手はありません。コラボでうまくバズに乗せられれば、登録者数を増やす大チャンスと言えます」

「でも、大丈夫かな? 下手したら炎上だよ? ウミコちゃんは可愛いで売っているし」

「そう。ましてや、配信に異性を出すとそれだけで勘繰られますからね」

「あ、そうか……ややこしいよな」

「調には仲間に加わって貰いたいのですが、この問題がまだ解決できないんですよ」


 確かにカップルチャンネルでもないのに、異性が出ると炎上の元。変に仲を勘繰られてしまう。


「コラボ相手も女の子だし、巡さんによくない噂が立ちかねないなあ」

「ああ……参ったぜ」


 噂も何も真実はもっと深淵なんだよな。媚薬香水で有名配信者も交えて仲良く3Pだ、絶対に世間に漏らせる訳がねえ。今後の配信人生がかかっていると言っても過言じゃない。


「ルカ、お前何にも考えてなかったんじゃねーよな?」

「解決策が思いつかなく」

「無策も同じじゃねーか!!」

「……いや、手ならあるよ。良い事思いついちゃった」

「? どうするんですか」

「取り合えず、コラボに関してはOKって伝えておいて、ルカちゃん!」

「大丈夫なのか?」

「取り合えず巡さん、今夜早速、お披露目配信をしよう!」


 ……どうやら調さんに策があるらしい。




 ※※※




「そんじゃあまあ、今日は雑談序でに今後の予定と──後、うちの新しいメンバーを紹介しようと思う」

 

 :お、パーティ複数人態勢でやってくんか


 :こないだの見るとソロだと厳しそうだもんな


「や、そうなんだよ。深層に行くって言ったら協力してくれる友達が居てさ」

  

 場所は、配信用に整えた俺の部屋。

 隣に座っているのは──


「……謎の仮面ギタリスト・シラベだ」


 ──凄いゴツい甲冑に全身を包んだ調さんだった。

 声もすごく低くしてあるが、どうやらチョーカー型ボイスチェンジャーで変えているらしい。便利な世の中である。


 :誰ーッッッ!?


 :すげえゴツい人キターッ!?


 :男? 男だよな?


 :ね、成程


 調と白部ではイントネーションが違うし、大違いだ。調さんのネット上での源氏名としてはこれ以上ない。


「ただ、顔出しNGでさ……頼んでも甲冑を脱いでくれないんだよね」

「NGだ。シラベはあくまでも音楽で食べていくつもりだ。故に顔など不要ッ!!」


 :音楽で食べていくwww


 :ダンジョン攻略仲間ちゃうんかい!!


 :こんなギタリスト見たことねーよ!!


 :新手のビジュアル系かな?


 :中身は修行僧か何かかな?


「だけどシラベはすげーぜ? スキルは”魔音奏”。ギターで鳴らした音で攻撃出来るんだ」


 :それでギタリストか!


 :割と多いよな魔音奏持ち


 :白部さんって攻撃型? 回復型?


「バリバリのアタッカーだ」

「そんなわけで、もしラプトルの群れに囲まれても大丈夫ってワケ。俺も武器替えたし、次の攻略配信でお披露目するよ」


 :楽しみにしとく


 :何握るんだろ


 :下手だったもんな、剣


 :次の回で期待


「そんでもって、次の攻略配信なんだけど……幸いにもウチみたいな弱小Chとコラボしてくれる有難い人が居てさ」

「ああ。有難い事だ」


 :マジ!?


 :二度目の攻略配信でコラボ!?


「相手は──今話題のテイマー攻略者、阿形ウミコちゃんだ!!」


 :おおおおおおおおお!?


 :前に助けた子か!


 :あの子、最近勢いあるよね


 :もしかして助けた弱みに付け込んだ?


「ンなわけねーだろ、有難い事にあっちから申し出があったんだよ。場所はこないだ見つけた深層エリアだ」


 :888888888


 :良いじゃん、面白そう


 :ウミコちゃんに何かあったら殺すぞ


 ……ま、勘繰られても仕方ない。仕方ないんだが、本当にあっちから申し出があったんだ。

 こっちも受けるしかないってもんだ。

 そんな感じで視聴者の質問に答える形で雑談をしていくと、いつの間にか1時間が経とうとしていた。


「そんじゃ今日は──」

「最後に、生演奏を披露したい」

「え”」


 調さんがいつの間にか、自分のギターを取り出していた。ウソでしょ? 今此処でやるの?


 :マジ? 

 

 :主戸惑ってるけどやるん?


 ちょっと待て。何でうずうずしてるんだこの子。

 俺隣だよ? 爆音奏ぶつけられるの俺なんだよ?

 いやさ確かに防音室だけど、俺の耳は防音仕様じゃねーんだ。

 もしかして──もう我慢できないカンジ!?


「おいシラベさん、マジで──」

「テメェらあああああ!! 今日はシラベのライブに来てくれてサンキューッ!!」


 ──こうして、彼女の爆音演奏で配信はシメられた。

 此処が防音室で良かった、と心底俺は安心した。だが、至近距離であの爆音を聞かされた所為で耳は破裂するかと思った。


「……テンキュー……」


 :8888888888


 :ギター超上手いじゃん


 :主泡吹いて倒れてるけど


 :もうダンジョンじゃなくてギターで食っていきなよ


 ……。視聴者が満足したなら、それで良いか。俺の耳は何も聞こえねえけど……。

 駄目だ。未だにキンキンする。



 ※※※



 あの配信の後、またチャンネル登録者は増えていた。

 余程新メンバーであるシラベさんのインパクトがウケたのか、SNSでは彼女への反応も見られた。


「なあ、仮面ギタリスト大分バズってんだけど……普段は無口なのに演奏する時キャラ変わるのおもしれーって」

「そりゃあタレント性としてはおにーさんより強いですからね」

「酷い!!」

「よーし、これで無事にコラボできるわ!! 良かった良かった!!」

「良かったのか……? 俺の、人気は……?」


 そんな雑談配信も無事に終わり、チャンネル登録者数も順調に増え、3000人を超した。

 謎のギタリスト・シラベのインパクトは想像以上に大きかったらしい。あちこちで話題になっているようだ。

 最早俺の影が薄くなっている。


「何ですか、この魔鋼の甲冑装備!! いつの間に買ってたんですか!?」

「いやー、ロックンロールだと思わない?」

「思わないですよ!!」


 調さんが自慢げに甲冑装備を見せながらくるくる回ってみせる。

 うーん、正体も伏せられるし、調さんも喜んでいるし、俺的には問題は無いんだけど。


「確かにおっとりしてるってよく言われるけど、本当はカッコいいって言われたいの!! 言われたかったの!!」

「実際戦う時でも実用性は高そうだからな、その鎧……」

「ふふーん、そうでしょう、そうでしょう?」

「んまあ、ともあれこれで現状の問題は全てクリア……でしょうか?」

「後はコラボ配信に向けて頑張っていけば良いだけだな」

「ええ。それまでに、連携の練習を浅めの層でやっていきましょう」

「おう!」

「調は久々でしょうし、魔鋼ギターの調整をお願いします」

「任せておいて」


 ──俺達がこうして準備をしているうちに、順調にチャンネルの登録者数は増えていった。コラボ回への期待もあったのだろう。

 間もなく、ウミコChもコラボ配信の予定を告知し、ネットではちょっとした話題になる。

 

 そして──コラボの日が訪れようとしていた。

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