第6話:過ちは繰り返すさ!何度でも!

 ──気が付けば次の日の昼。

 俺は──ベッドの上で両手に花をやらかしていた。

 未だにルカはぐーすか寝ているが、顔を真っ青にした俺と、居たたまれない顔でシーツにくるまる調さん。


「……なぁ、何でこんな事になっちまったんだ……」

「……ほんとーに……ゴメン……」


 またしても──何も記憶が無い。どう考えても媚薬の所為だ。

 コロンの焚き過ぎには気を付けましょうとかそう言う問題ではない。

 何で媚薬入りの香水なんか買ってしまったんだ、と問い詰めたのだが、


「いつか……また彼氏が出来た時に使おうと思ってて……」

「何に使おうと思ってたんだよ!!」

「自分で言うのも何だけど……その、誘うのが恥ずかしい時に使おうかなって……」


 恥ずかしそうに言う調。良かったな、目論見は大成功だ。彼氏じゃねえ男が暴走したけどな。

 そんなモンを間違えるような場所に置いていたのがそもそもの発端である。非常に反省してもらいたいところだ。


「何で……3人で、なんて……うっうっ」


 泣くな。泣きてえのはこっちの方なんだわ。こんな大事故に巻き込まれた挙句、3Pにもつれ込んだってマジ?

 ダンジョン潜ってねえのに疲労感すげーんだけど。

 昨日の今日で立て続けだから、筋肉痛すげーんだけど。動ける予感がしないんですけど。


「まー……間違ったモンは仕方ねえんじゃねえか? 薬が強すぎた所為で俺何にも覚えてねえし……」

「……巡さん、ケダモノでした……ルカちゃんはもっとケダモノでした……」


 調さんのマシュマロのような胸には虫刺されのような痕がいっぱいついている。

 どうやら俺だけでなくルカにも散々いじめられたと見える。


「……結局全員痛み分けか……」

「うにゃー……おにーさん……えへへへへへ」


 涎を垂らしたルカが右腕に抱き着いてくる。

 ルカの白い肩や首元に噛み痕がいっぱい残っており、罪悪感がスゴい。

 これどっからどう見ても俺のじゃねえか。何? 理性がトんだ俺、何をしでかしたの? いや、ナニをしでかしたのは分かるんだけどね?


「……ルカちゃんがこんなに甘えるなんて。二人は付き合ってるの?」

「いや、付き合ってねえよ……?」

「おにーさん……えへへ、もっと、甘えさせて……」

「でもこんな事言ってるけど」

「んまあ……”頼れ”って言っちまったからな」

「……ルカちゃんは、ああ見えて寂しがりだから。寂しがりの癖に意地っ張りで、人に甘えるのも下手くそ」


 つん、と調がルカの頬を突いた。

 うにうにと小さな唇が動くが、未だに起きる様子がない。


「自分で完結させちゃう悪い癖があるんだよね……そんなあの子が気を許すなんて。もしかして、ルカちゃんが言ってた間違いの相手って……」

「う、俺だよ……」

「やっぱり。でも、良かった──思ったよりも、真面目そうな人で」

「酒の勢いでワンナイトしたクソ野郎だぞ」

「この子酒で前科沢山あるから」

「しっかりうちで躾けておきます……」

「ルカちゃんがこんなに誰かに対して心を許すなんて珍しいの。だから──今後もよろしくね」


 ふわふわの赤毛を撫でながら調さんはふんわりと笑った。


「……で、良い感じの空気にしてるけど、元はと言えば調の所為でこうなってるんですがね!?」


 パチリとルカの目が開いて、調さんがビクリと撫でくりまわす手を止めた。


「ル、ルカちゃん!? 起きてたの!?」

「ちょっと前からですっ!! 全くもう……調のドジの所為で、大変な事になっちゃったじゃないですか!!」


 顔を真っ赤にしながらルカが叫ぶ。流石の彼女も3Pは未知の領域だったらしい。


「ご、ごめん……」

「ドジっ子が過ぎるな……あまりにも」

「……まあ。3人で、ってのは新鮮でオツでしたけど」


 こいつも記憶残ってんのか……じゃあ完全に記憶トんでんの俺だけじゃねえか。


「全くもう、胸ばっかり大きくなって!! ドジな所は全く治らないんですから!!」

「ご、ごめんってぇ……」

「まあ良いじゃねえか、自分だって酒でやらかしてるだろ」

「ムッ!! おにーさんはどっちの味方なんですか!! まさか、巨乳だからって調を庇うんじゃないですよね!?」

「オメーは私怨マシマシだな!!」

「好きで大きくなったんじゃないんだけど!!」


 しかもルカのヤツ、恥も無く調さんの胸に顔を埋めているし。


「……とりあえず、片付けますか? 色々」

「先ずは調さんの胸から手ェ放せ」

「ううう……初めて会った人の前で流石にこれは恥ずかしいよ、ルカちゃん……」

「今更でしょうッ!! もっと恥ずかしい事をしておいてッ!!」


 それはそう。




 ※※※




 3人でベッドや諸々を片付け、着替え終わった頃には午後3時。

 改めて昨日の話の続きをすることになった。


「えーと……その。この大事故の後で言うのもアレなんですけど、調。私達と共に、ダンジョン攻略に協力してくれませんか?」

「断れる空気ではないよね……此処までやらかしておいて」

「いや、調さんが音楽に専念したいなら構わねえよ。俺さ、勿体ないって思ったんだよな。あんなにギター上手いのに、デビュー出来ないなんてさ」

「……本当?」


 心からの本音だ。

 あのギター演奏は鼓膜にガンガン来て、とても魂を震わせられるものだった。何より──


「ギター握ってる時の調さん、すっごく楽しそうだったし」

「おにーさん? 調が入らなかったら、仲間のアテ居ないんですよ?」

「うーん、ちょっと考えてみたんだけど……」


 調さんはロッカーを開ける。その中には──演奏に使っていたものとは色も質感も違う魔鋼製のギターが入っていた。

 塗装もされておらず、魔鋼特有の赤紫色の光沢が綺麗だ。

 ずっしりと重いそれを抱えると、調さんはそれを俺達に見せつける。


「そろそろこの子も使ってあげたいな、って思ったの」

「久々に見ました、調の魔鋼ギター!!」

「これが例の……!」

「うん。これも音楽の神様からの天啓かもしれない」


 天啓っつーか、大ドジだった気がするが……黙っておこう。


「だからやってみようと思うの。久々にダンジョン攻略。それに──ルカちゃんが気を許した人がどんな人なのかも気になるしね?」


 悪戯っ子のように調さんは俺の方を見て微笑むのだった。


「決まりですね! おにーさん、仲間が出来ましたよ!」

「ああ! ん……待てよ」


 そう言えば──意図せずとはいえ、調さんともシてしまった……って事は。


「なあルカ。調さん。もしよかったら……近いうちに早速慣らしの為にダンジョンに行きたいんだけど」

「それは大丈夫だよ。慣らしって事は本命があるってこと?」

「まあな。調さんの実力も見ておきたいし」

「もしかして、おにーさん。例のスキルですか?」

「ああ。調さんには言っておいた方が良いかもしれねー」


 ぽかん、としている調さんに──俺とルカは隠していた俺自身のスキルについて説明した。

 スキル開発センターから出された診断書という名の証拠も交えて。

 その結果、調さんの顔はドンドン赤くなっていくのだった。


「な、コ、コピー!? そ、それも、ね、粘膜接触した相手って──無駄に生々しい!!」

「それは仕方ねえよな……」

「まさか、それでスキルを増やす為に色んな女の子とエッチを──」

「しねーよ!! 最初は抜刀絶技だけでやってくつもりだったわ!!」

「どっかの誰かがドジった所為で予定が狂ったんですよ!!」

「ごめんなさい……」


 実際、ルカの当初の予定としては近接担当・前衛の俺と、遠距離攻撃・後衛の調さんの二人で固めていく予定だったらしい。

 だがしかし──今の俺は、”抜刀絶技”に加えて”魔音奏”も習得している──はずだ。


「そんなの最強じゃない……ルカちゃんと私のスキルが組み合わさったら……」

「いや、そうでもないんですよ。あくまでもコピーできるのはスキルだけ。その人が今まで積み上げてきたスキルではない経験まで得る事は出来ません」

「どういうこと?」

「私は”抜刀絶技”と相性の良い刀をずっと使ってきましたが、おにーさんは剣も使うのが下手くそです。今から練習しても私には追いつけないし、その所為で”抜刀絶技”も完全には使えないでしょう」

「じゃあ、巡さん。楽器は?」

「生憎カスタネットくらいしか鳴らせねえよ。中学の頃音楽の成績は2だったぜ」

「私達は生まれつきスキルを持っていて、それを生かす為に長所を伸ばす練習をしてきたはずです。おにーさんには、それが無いんです」


 つまり、俺は個々のスキルではどうやったって二人に追いつきようがないのだ。

 今注文しているウォーハンマーでも、”抜刀絶技”を完全に生かせるとは言い難い。刀と違って納刀の概念がウォーハンマーには無い。故に、何処で”抜刀絶技”のスキルが発動するのか分からないのである。


「だけど……2つあるスキルを上手く組み合わせられれば、何か面白い事が出来そうな気がするんだ。それを確かめたい」

「うんっ。そう言う事なら協力したいな。魔音奏の事は今まで使ってきた自分自身が一番分かってるつもりだから」


 こうして、早速3人でのダンジョン探索の予定が決まった。

 武器のウォーハンマーは一先ずレンタルショップで借りれるものを使う。

 だが、ぶっつけ本番で扱えるはずも無いので──練習が必要になる。

 それに関しては──ルカの出番だ。


「じゃあ、おにーさん、早速スキル開発センターでこの後ウォーハンマーの練習しましょうか☆」

「待って俺筋肉痛なんだけど!!」


 ……近接戦闘のプロたるルカは、良い師匠になりそうだ。


「ふふっ、巡さんは幸運ね。登録者150万人の刀使いに教えて貰えるなんて」

「筋肉痛の元凶が何言ってんだーッ!!」

「勿論、調にも来てもらいますよ!」

「ええ!?」



 

 ※※※




 ──スキル開発センターでは、ダンジョン攻略者がトレーニングをするための部屋も借りる事が出来る。

 スキルの鑑定、トレーニング、その他諸々。ありとあらゆる方面から攻略者をサポートするのがこの施設なのだ。

 

「大体、注文したウォーハンマーの重さがこのダンベルの塊と同じくらいです」

「結構重いな……」

「これが大体10kgくらいですね。史実のそれより倍近く重いです。普通の人には扱えないでしょうね」


 超人化してるおかげで何とかなってるけど、こいつをずっと振り回すのはなかなか骨が折れるな……。

 実際には防具も付けるわけだし。


「ダンジョン攻略者用のウォーハンマーなら、もっと巨大な敵相手も想定して、重いものが作られているのですが……今回は普通ので考えましょう」

「最初から重すぎると、振り回すだけで一苦労だものね」

「そうか、振り上げて使わなきゃいけねーもんな」

「そしてこれがウォーハンマーの部位なんですけども」


 レンタルしてきたウォーハンマーの部位をルカが解説していく。

 やっぱり見た目は柄の長いトンカチだな。

 平面の槌頭、ピッケルのように尖った錨爪。この2つを使い分けて戦うという。

 

「大体、錨爪で相手を穿つのが強力なんですよね」

「刺突武器って感じよね」

「逆に、デカい相手には槌頭でカチ上げてやるのが良いと思います」

「……ところで気になったんだけどよ」

「何でしょう」

「ルカが使ってた、あのデカい刀……あれはどれくらいの重さなんだ?」

「4kgでしょうか。で、長さが1メートル無いくらい。私がもっとデカければ2メートル級の刀も使えたんでしょうけど」


 所謂野太刀と言うやつだ。自分の身長より長い刀をどうやって扱うのか、想像も出来ない。

 だけど、大きな刀じゃなければ、危険生物にはが立たない。


「刃物にしては重いしデカい……よくそんなもんをスムーズに抜刀・納刀出来るな……」

「修行の賜物ってヤツですよ」


 取り合えずダンジョンに潜るまでに、やる事は決まった。

 この重さに慣れる事。そして──ウォーハンマーで素振りの練習をすることだ。


「そして次は……調。”魔音奏”のスキルの説明を」

「うん。魔鋼武器を使って立てた音が稲光になって飛んでいくの。似たようなスキルを持っている人は結構居て、個人差が大きいかな」


 どうやら調さんの場合は立てた音を攻撃に使う事ができるが、中には立てた音で周りのものの傷を癒すことができる人もいるらしい。

 類似したスキルが多いと同時に個性も出やすいのが”魔音奏”の特徴なのだと言う。


「一番効率的に音を奏でやすいのは当然、魔鋼を使った武器を使うこと。でも──魔鋼を使った武器から出た音なら、スキルの効果は乗るはずだよ」

「……それってもしかして、ウォーハンマーを外しても、音で相手を攻撃出来るってことか?」

「そうだね。打楽器……なんて言葉もあるくらいだし」

「尤も、指向性を持たせられる上にコントロールできるのは魔鋼楽器の強みです。調の演奏攻撃はとても正確で、味方を巻き込んだりしません」


 ……やっぱり個々のスキルの使い勝手は、どうしても二人には劣ってしまうのか。

 だけど上手くスキルを組み合わせれば──何か出来そうな気がするんだよな。

 

「後は、実戦で見つけていくしかない、か……」




 ※※※




 ──その日の夜。

 抜刀院ルカは、チャンネルのアカウントに届いたダイレクトメッセージに目を通していた。


「ある意味、予想はしてたし、想定もしてたし、何ならバズ計画にも組み込んでたんですが……」


 思ったよりも速かった。

 このチャンスは──逃してはいけない。しかし同時に取り扱い注意でもある。

 メッセージを要約すると、このような事が書かれていたのである。




【拝啓:メグルCh様へ】


【この間の初配信、拝見させていただきました。まさか、配信活動を始められたとは夢にも思っていませんでした。】


【つきましては、この間のお礼を兼ねて、コラボ配信をしたいのですが──時間の合う日がありましたら予定を調整していただけると幸いです】


【探索場所は、先日の初配信で発見された深層を希望します】


「うーわマジですか……あんなことがあった後なのに、この子もタフですね……」




【PS:ルカ御姉様とは本当に何の関係もないのですね? 気になっています】


【阿形ウミコより】




「……”慣らし”だなんて言っている場合ではないかもしれませんね」

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