第5話 熊子の正論

「どうやったら、個別に話を聞くことができるかしら……?」

「おれ達が、バイトを個別に呼び出す口実が無いよなぁ」


 姉もクロイさんも、この件にどういう切り口で介入したら不自然でないのか、対応に困っている。


「お店の経営コンサルタントという形で入っていただくのはどうでしょう?」


 サボテンのマスターが提案した。


「それが自然じゃないですかねぇ?クロイさん、副業で経営コンサルもやってますよねぇ」

「まあそうだな、異世界鉄道の経営も落ち着いてるから、コンサル業も再始動しようかと思ってたところだぜ……」

「でもまあ、いちどマスター本人が個別に話を聞いてみた方がいいんじゃない?結局はマスターのお店なわけだし!」


 じっと話を聞いていた熊子ちゃんが正論を言った。


「それはそうだな。マスター、苦手かもしれないけど一度個別に話を聞いてみろよ」

「確かに、まずはそこからですよねぇ」

「……わかりました、まずは、個別に話を聞いてみましょう」

「それで、一応状況が見えてきたら、また相談してくれ!」

「ご連絡、お待ちしてます」


 とりあえず、今回はお礼と言う事でコーヒーやケーキはマスターのおごりとなり、ボクたちは鎌倉に帰ることとなった。


「さて、帰り道ですが……」

「クマイさんの最大の関心事はそこだよね!」

「クロジさんは、なんでボクの心がわかるんでしょうねぇ?」

「ミーシャ、みんなわかってるわよ……」


 と、言うことで金沢八景から京急逗子線に乗り、逗子・葉山駅からJR逗子駅まで歩いて乗り換え、鎌倉に帰ることにした。


「この辺の移動の流れは、『どうぶつクエスト』の第53話『三線』、第54話『鎌倉』と重複するので、そっちを読んでね!」

「クロジさん、すごいメタ発言ですね!」

「メタ発言にも慣れてきたよ!」


 移動時の風景描写が良く言えば丁寧、悪く言えばしつこいのがこの作品群の特徴だが、さすがに一回描写した流れを何度も書くのは面倒なので、ボクたちはワープするように鎌倉にたどり着いたのだった。


「やっぱり三線軌条は興奮しましたねぇ!」

「まあ、あんまり逗子線には乗らねえからな……」


 帰りがけにすこし寄り道をして、鎌倉市農協連即売所へ行って野菜と乾物をみていく。クロジさんは早朝に来て仕入れを終えていたが、熱心に覗いている。


「そういえば、ここ、通称『レンバイ』って言うんですかねぇ?」

「農協の人は農協連即売所を略してそう呼ぶんじゃねぇか?」

「この間、歩いていたら観光客の方に『レンバイってどこですか?』って聞かれて戸惑っちゃいました」

「地元の古くからの買い物客は『八百屋市場』って呼んでるからな。農協の人の呼び方をメディアが広めてるから、プロと観光客がレンバイって言って、地元の買い物客は?っていう面白い事例だな」


 このレンバイこと鎌倉市農協連即売所では、毎日、日替わりで近隣の農家が農作物を販売している。昭和三年にはじまり、現在の場所に移ったのは昭和三二年とのことだ。路地物がおおいので季節ごとに様々な野菜が楽しめる。また、スーパーでは売っていないような変わった野菜が売っているのも特徴で、眺めるだけでも楽しかったりするのだ。野菜売り場のほかには乾物屋やチーズケーキ、燻製の店などがあり、地元の人だけでなく観光客にも人気なのだった。


 クロジさんと熊子ちゃんは羅臼昆布と利尻昆布のどちらを買うかどうか悩んだりしていて、姉とクマーリャはチーズケーキを買いに行っている。


「クロジ、結局どんな昆布を買ったんだ?」

「悩んだんだけど、羅臼昆布にしたよ!」

「なんか、種類が色々あってよくわからないんですが……」


「まず、関東で良く売っていて価格が安いのは『日高昆布』だね。関東ここらへんでは、家庭料理の昆布といったらまずこれだよ!これは出汁を取った後に具材とか佃煮にして食べられるのがいいところだね。次は『羅臼らうす昆布』なんだけど、これはとっても濃厚で深い味の出汁がとれるよ!『利尻昆布』は京料理とか、上品な料理によく使われる昆布で、限りなく透明に近い出汁が取れて、お料理の見た目が綺麗になるんだ!最後に、『山だし昆布』または『真昆布』は大阪でよく使われる、少し甘みのある出汁がとれるんだ!」


「いろいろあるんですねぇ。勉強になります」

「クロジとクマイって、似てるところあるよな!」

「そう?」

「自分の興味あることに突き進む感じが、よく似てるぜ!」

「クロイさんも、そういうところ有るんじゃないですかねぇ?」

「そうかな?」


「だいたい、うちの男たちはみんなバカなのよ」

「そうね……」

是非ぜひもないですわ……」


そんなこんな、ボクたちは家に帰りついたのだった。



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