希少性さえあればそれでいい
ちびまるフォイ
希少性ハイエナに心はない
「なに!? 会場限定グッズが手に入る!? 行かねば!!!」
会場のオープン3時間前には当然現地入り。
転売ヤーすらまだ来ていない時間にレジャーシートを敷いて待つ。
「それでは販売開始です!」
会場が開くと、最初の客ということもあり喜ばれた。
「ようこそ。〇〇ちゃんグッズお好きなんですね」
店員の言葉にすぐに答えた。
「いえ別に」
「え。ではなぜここに? 〇〇ちゃんグッズ販売ですよ」
「希少だから来たんです」
「困ります! 転売する人には売れません!」
「転売なんてするわけないでしょう!!」
「?????」
「珍しいものが欲しいだけですよ!!」
会場限定のグッズを手に入れると大満足。
キャラとかよくわからないが、希少なものには価値がある。
そして、それを所持している自分は
きっと価値のある存在にちがいない。
なにせ普通の人には到底手に入らない希少性の高いものを、
いくつも持っているのだから。
「さて、次はどんな希少なものがあるかなぁ」
ネットを巡回し、できるだけ世に流通していない
珍しいもの希少なものが無いかを探していく。
希少性があればなんだっていい。
鼻かんだティッシュだって一般人じゃゴミでも、
有名俳優のものであれば希少性があるので価値が生まれる。
そのもの本体の価値ではなく、どれだけ希少性があるか。
そこが何よりも重要。
珍しいものを持っていれば自分はかけがえのない存在なのだから。
「こ、これは!! 行かねば!!」
また新しい希少なものが手に入るイベントを発見。
きっちり時間を作ってイベント会場へと足を運んだ。
「△△ビーチへようこそ!! それではイベントの説明を始めます!!」
イベント会場の砂浜には希少なものを求めて、
近場・遠方から多くの希少ハイエナが集まってきていた。
「現在、この砂浜には世界に2つしかない
特別なガラス細工が埋められています!
それを見事見つけた人にプレゼント!!
世界にたった2つ! これはレアですよ!!」
参加者全員の目が紅く光る。
話半分ですでに目は砂浜に埋まるガラスを探している。
「では、スタート!!」
開始の合図とともに参加者は砂浜を一気に探し始める。
とにかく表面積を広く取ろうと、
手をいっぱい広げてブルドーザーのように砂浜を駆けずり回る人。
簡単な場所には埋まっていないと、
砂浜をとにかく下へ下へと掘り進んでいく人。
お金を使って参加者を買収して人海戦術を使い探そうとする人。
そんな物欲にまみれた人間の醜悪な姿を、
八百屋を通りかかった近所のおばあちゃんは不思議そうに見ていた。
「今日はずいぶん賑わってるねぇ」
と。
開始10分だった。
「あった!! あったぞーー!!」
1つのガラス細工が掘り起こされた。
残りは1つ。
「ああ、ちくしょう! 全然見つからない!」
砂浜に埋まるガラスなんてすぐ光でわかると思っていたが
手入れされていない砂浜にはゴミが漂着していて見分けがつかない。
荒く探してガラス細工を壊してしまえば価値なんてゼロ。
一瞬で燃えないゴミになる。
「はやく……早く見つけないと……!!」
焦る気持ちだけが脳を支配していく。
そしてーー。
「なんだこれ?」
たまたま近くをサーフィンしにやってきていた人が、
ふいにきれいなガラス細工を拾い上げた。
それと同時に終了のファンファーレが響く。
「終了~~!! 世界にたった2つのガラス細工はが見つかりました!!」
「うそぉ!?」
コレクターたちはがっくりと肩を落とした。
なにより悔しかったのは価値もわからない人に取られたこと。
「え、これそんなに珍しいものなの?
まいったなあ。荷物になっちゃうよ」
「だ、だったらオレにくれ!!! な!!?」
「いやそれはちょっと……せっかくだし」
「なんでだよ!!」
サーファーに交渉したが誰ひとりとして取り合ってくれなかった。
希少だからという理由で手放したくないのだろう。
猫に小判とはこのことだ。
大会が終わってからも悔しさは残り続けた。
「ちくしょう……なんであんなやつに……。
あと少しでオレのものだったのに……」
今頃あのガラス細工はどうなっているだろうか。
見るからに粗暴なサーファーのことだ。
どうせトイレにでも飾っているのだろう。
何も劣化保護をしないで。
そのうちトイレ掃除とかでうっかり割ってしまうオチまで見える。
布団にもぐって歯ぎしりしていると、ふと考えが浮かんだ。
「……きっとあのガラスだって大事にされたいに決まってる。
だったらオレが奪うことはむしろ正義なのでは?」
そう思ったが吉日。
目出し帽を被って深夜にサーファーの家に向かった。
案の定、トイレの水出る付近に世界に2つしかないガラス細工が置かれていた。
「価値もわからない猿の手にわたってしまって……。
さあおいで。これからは価値のわかる人のもとでーー」
そのときだった。
電気がつくと昼間に見たサーファーが立っていた。
「だ、誰だ!?」
ふいをつかれたサーファー。
一方自分は見つかったときにどうするかも事前に決めていた。
先手を取ったのはもちろん自分だった。
用意していたスタンガンを迷いなく当ててやった。
「ぎゃ!!」
サーファーは床に倒れる。
泡を吹きながら魚のように体をびくんびくんを痙攣させていた。
「あ、あぶなかったぜ……」
そっと家を後にすると、自宅の保管庫にガラス細工を飾った。
「ああ、やっぱり希少性の高いものは
その価値がわかっている人の手元におくべきだなぁ」
ガラス細工の細かさとか美しさとか。
そんなものは全くわからない。
まあとにかく世界で2つしかないものの片方を持っている。
ということは自分はきっとすごいのだろう。
翌日、ニュースではある事件を報道していた。
『サーファーのXXさんは昨日の夜、何者かに襲撃されて死亡しました』
持っていた歯ブラシを落とした。
「し、死んじゃったんだ……」
気絶させるつもりだったのに。
テレビでは悲しむ知人たちにマイクを向けていた。
『あんないい人、世界にほかといない……どうして……』
その言葉が雷に打たれたような衝撃をもたらす。
自分はとんでもないことをしたのではないか。
「もし、あの男が世界にひとりしかいないなら
俺はなんて希少なものを台無しにしてしまったんだ……」
あれだけ希少価値にはうるさかったのに。
その自分が世界にひとつしかないものを壊してしまったのなら。
なんて罪深いことをしたのだろう。
どうすればこの大罪に報いることができるのか。
「ああ、なんてことを……! なんてことをしてしまったんだ……!!」
後悔は耐えない。
テレビによると葬儀は翌日らしい。
それまでに自分のしでかしたことの罪滅ぼしをしなくては。
カバンにスタンガンと、鍵を開けるためのバールを仕込む。
今度は別の家に向かった。
それは最初のガラス細工を手に入れた人の家だった。
「だ、誰だお前は!?」
スタンガンで手際よく黙らせると、
コレクションルームにある世界に2つしか無いガラス細工を
バールで粉々に壊してやった。
「これでよし」
証拠をすべて消してから家に帰って喪服に着替える。
日が昇ると、サーファーの葬儀に顔を出した。
「このたびは……御冥福をお祈り申し上げます」
「ありがとうございます……。息子も喜びます」
母親であろう人はハンカチで目頭を抑えていた。
「いいえ、喜んでいません」
「え……?」
「世界でたった一つしか無い命という
希少なものを失ってしまったのですから
その悲しさたるや想像もできません」
「はい……」
「ですから、こちらをどうぞ」
母親にガラス細工を手渡した。
自分が大事に保管していたものを。
「これは……?」
「あなたは世界でただひとつしかないものを失いましたよね」
「ええ、息子を失いました」
「ですから、こちらを差し上げます」
「はあ?」
きょとんとする母親にわかりやすく教えてあげた。
「このガラス細工は世界に今ひとつしかないんです。
ですから、これを手に入れればもう悲しくないですよね?
だって同じだけ希少なものなんですから」
希少性さえあればそれでいい ちびまるフォイ @firestorage
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます