第17話

「からちゃん!!からちゃん!!」



「あれ…秋さん?」



彼女の声に俺が目を覚ますと、そこには大きな瞳から涙をボロボロと流す彼女の姿があった。



「俺…どうなった…?」



呆然とする俺に、彼女は俺の寝ているベッドの布団を強く掴んで怒鳴った。



「どうなったじゃないでしょ!?事故ったの!!いつも通らない細道を通って事故にあったの!!前から来た逆走車とぶつかったの!!」




「そうだ…それで桐也が…」



(桐也が俺を…)




「あれ?アイツは…?」



「?アイツって誰?」



キョトンとする彼女に俺は我に返り、誤魔化して笑う。



「なんでもないよ」



「もう…本当にビックリしたんだよ…?頭から血も出てて、体だって冷たかったのに、からちゃん自分で救急車から降りて、歩いて私の病室まで来たんだよ」



「ええ!?歩いて!?」



「そうだよ、そしたら急に倒れて動かなくなっちゃうし…!もう…死んじゃうかと思ったじゃん!!」



「ご、ごめん…」



「ごめんじゃない!謝っても許さない!からちゃんは死ぬの禁止!分かった!?」



「禁止…」



突拍子もない彼女の発言に俺が面食らっていると再び彼女が「返事!」とまるで監督のようにビシッと俺を指さしてくる。



「は、はい」



「明日もからちゃんは検査だって。だから今日は寝て、絶対死んじゃダメだからね!」




念を押すようにして俺を振り返った彼女の目にはまた大量の涙が溜まっていた。




そして俺の病室から彼女が出ようとしたそのすぐ後ろを桐也がついていくのが見えて、俺は心で桐也を呼び止めた。



すると桐也はいつもの微笑みを浮かべ、俺の傍まで寄ってくる。



「俺の体、乗っ取る気だったんじゃないのかよ」



ぶっきらぼうに言う俺に、桐也はキョトンと首を傾げた。



「は?お前…俺をわざと事故に合わせて俺の体に取り憑いて秋さんとよりを戻す気だったんじゃ…」




桐也は俺の言葉を聞き終わると、声の無い声で笑った後、首を左右に振った。



そして俺にも分かるように人差し指で自分の唇を指さしながら、唇をゆっくりと動かした。



『や、く、そ、く』



そう言って桐也は微笑むと、スっと空気に溶けるようにして俺の前から姿を消した。

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