第14話

彼女が入院して一ヶ月が過ぎたある日、大学の教授と卒論の話をしていると、彼女が入院している病院から電話がかかってきた。



「今すぐ行きます!!」



それは彼女の容態が急変し、意識がないというあまりにもショッキングなものだった。



俺は慌てて車に飛び乗り、彼女のいる病院へと急いだ。



しかしこんな時だというのに、俺がアクセルをいつもより踏み込んでもスピードは上がらず、イライラのあまり俺は流していたお気に入りのアーティストの曲を乱暴に止めた。




「こんな時になんなんだよ…!」



こんなことをしている間にも彼女はどんどんと遠くへ行ってしまうかもしれない。



病院に着く前にまた電話がなったら……?



その時はどんな内容を告げられるのか……そう考え始めたら全身が焦り出してソワソワと落ち着かなくなった。



「秋さん…!」



信号が赤信号から青に変わり、俺が強くアクセルを踏もうとしたその時、ふっと後部座席に人影が見えて、気が付くとそこには桐也の姿があった。



(なんでお前が今ここに?)



彼女が危ないこんな時に桐也が彼女の傍ではなく何故俺の所に現れたのか、俺は検討がつかず、眉を寄せた。



そして車を発進させた直後、車内に彼女の歌が流れ始めた。



俺が初めて彼女を見つけたあの日、彼女が歌っていた曲だった。



(……声が違う…?)



いつも傍で聞いている彼女の声と、今流れている彼女の声は僅かな差ではあるが、俺には違って聞こえた。



そして俺は再び赤信号で車を止めたタイミングで滅多に開けないCDトレーを引き出した。



するとそこにはプレイヤーに入れた覚えの無い、真っ白なおそらく家電量販店で買ったであろうダビング用のチープなCDにマーカーで"秋、20✗✗年"と書いてあった。



(10年近く前のCD…?)



それから俺は再びCDをプレイヤーに戻し、ニコニコと後部座席で微笑みながら曲に合わせて身を揺らす桐也と共に10年前の彼女の歌声を聞きながら病院へとたどり着いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る